●CHANGE 9●
****第九章 出産 アキラ****
何となく予感はしていた。
このお腹の子が生まれたら、全てが終わる。
夢の時間は終わりだって―――
「――……っ…」
「塔矢??」
予定日前日――陣痛が始まり、僕は進藤に連れられて病院の分娩室へ入った。
あまりの痛さに意識が薄れていってる中、僕はあのトロピカルランドから始まった女としての生活を思い返していた。
進藤に一番に話してよかった。
母に話してよかった。
子供を作ってよかった。
全てにおいてよかった気がした。
それに、なによりあの言葉。
例え僕が男に戻っても、ずっと一緒だと行ってくれた彼の言葉が何より嬉しかった。
もう思い残すことはないよ。
例えこの体がどうなろうと……
「うぅ…あ…ぅ…は…」
もう駄目だと思った瞬間――すっと痛みが引いて……大きな産声が聞こえた。
と同時に体が異様なほど熱くなり…熔けるような痛みが全身を駆け巡った。
あの時と同じだ。
今度は逆。
きっと僕は男に戻るのだろう―――
「――…ん…」
「あ、起きた」
気がついて、目を開けると――進藤がいた。
僕の手を握って…指の先にキスしてくる。
「塔矢…お疲れ様。ありがとう、オレらの子供…産んでくれて」
「…どこ?」
「ここ」
立ち上がった進藤が、ベビーベッドから赤ん坊を抱き上げた。
「ほら、可愛いだろ」
「うん…」
僕もよく見ようと起き上がると、何やら違和感を感じた。
違和感というよりは…しっくりくる感じで。
体を触ると、理由がはっきりした。
「戻ったんだね…僕」
「ああ。よかったな」
「……」
よかった?
本当によかったのだろうか。
こんな体じゃ子供にミルクもあげれない。
進藤にだって……
「なに落ち込んでんだよ。言っただろ?男に戻ってもオレの気持ちは変わらないって」
「…本当に?」
「本当!」
僕の疑いを晴らすかのように、チュッとキスを躊躇いもなくしてくれた。
「…なんなら、最後までヤる?」
「い…いい。すまない、疑った僕が悪かった」
「よろしい」
改めて、僕らの子を抱いてみた。
小さくて…柔らかくて…温かい僕らの赤ちゃん。
すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「オレ似だと思う?オマエ似だと思う?」
「さあ…どっちかな」
「父親が二人で、女の子なのに上手く育てられるかな?」
「何とかなるんじゃないか?」
「そうだな…何とかなるよな」
一生言うつもりのなかった彼への想い。
それが今や、通じ合うだけでなく僕らの間に子供までいる。
もう女ではないけど、ずっと…一生夢が続くってことだ。
「進藤…好きだ」
「…ふぅん」
「なに?」
「いや、男のオマエに告られるのって、なんか誇らしいっていうか快感だな〜なんて。オマエに勝った気分」
「どうせなら碁で勝ってみろ」
「へへーん。オマエが産休で休んでたおかげで、段は追い付いたもんねー」
「段なんか関係ないよ。タイトル戦が全てだ」
「うわ、可愛くねー。女だった時はあんなに可愛かったのに」
「昔の話だ。ああ…そうだ、いいこと教えてあげる」
「なんだよ」
「僕、実は薬で女になったんだ」
「……へ?」
「実験だって言ってた。きっと子供を産むと元に戻る薬だったんだろう。ということは実験は成功だな」
「意味…分からないんですけど?」
「そのうちその薬が市場に出回るかもしれないということだ。もし見つけたら、次はキミが飲む番だ」
「え?!オレが女?!それだけはか…勘弁〜っ!」
このままずっと永遠に共に―――
―END―
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