●CHANGE 8●
****第八章 妊娠 ヒカル****
そもそも塔矢は男で、なぜ女になったかという所から説明しなくちゃならなかった両親への説得。
とりあえずオレは塔矢が好きで、いつ男に戻っちまうか分からないから子供を急いで作った、という点をアピールしまくったら何とか許してくれた。
塔矢先生も同様。
結婚は17だから出来ないという以前に、戸籍上は男同士だからもちろん出来ない。
生まれてきた子供は塔矢の方に籍を入れるという形で合意した。
ちなみにもし二人目が出来たらオレの方らしいけど、そこまで塔矢がずっと女なら、戸籍を変更して結婚しろとか、曖昧なままで話し合いは終わった。
でもそんなことより今は、悪阻が酷くてずっと寝たきりな塔矢の体が心配だ。
「…ぅ……」
「大丈夫か?吐けるなら吐いちまえよ?楽になるから」
「ん…ありがとう」
もうすぐ四ヶ月の塔矢の腹。
まだ全然大きくないから実感はわかないけど、この中にオレらの子供がいるんだと思ったら、嬉しくて仕方がない。
両方の親から差し入れされた妊娠出産子育てに関する本を、今は片っ端から読む毎日が続いている。
「あ。言われた通り、長期休暇の申請出してきたからな」
「ありがとう。何か言われた?」
「んー…女になってからオマエずっと体調不良の演技してたから…そんなには。やっぱりって感じかな」
「そう…」
棋院は問題ないが、問題は塔矢の周りだ。
特に緒方さんや芦原さん辺りは
「なぜお前がアキラ君の休場届を出すんだ。俺らは面会謝絶なのに」
と煩かった。
塔矢の出産まであと半年。
オレが守ってやらないと。
塔矢はオレの恋人で、オレの子供を産んでくれるんだから――
「順調ですね」
定期検診は毎回オレもついて行ってる。
エコーで見る小さな命は感動そのもの。
検診の度に徐々に大きくなっていて、人間の形に近付いてきていた。
「いつも昼休みに診てもらってすみません」
「いいんですよ。事情が事情ですし」
「ありがとうございます」
明子さんの知り合いだという院長先生は、美人で気さくなアラフォー女性だ。
決して深入りしてこないし、口も固い。
両親にしても病院にしても、オレらは周りに恵まれてるなぁ…としみじみ感じる。
「塔矢、女になってくれてサンキューな」
「なに?急に…」
「オレ、生まれてから今までで、今が一番幸せかも!」
「…僕もだ」
「もっともっと幸せになろうな!」
「うん…そうだね」
そっとキスをして、抱きしめあって…二人で幸せを噛み締めた――
「…ふぅ」
八ヶ月目にもなると塔矢の腹はずいぶん大きくなって、もうマタニティ用の服しか着れなくなっていた。
もちろん生まれてくる子の性別ももう分かっていて、女の子らしい。
待ち切れないお互いの両親が次々にベビー用品を買ってくるので、塔矢の部屋もオレの部屋も荷物で埋めつくされてきた。
「やばいなこれ…。狭すぎてオレの部屋じゃ絶対育てられねぇ…」
というか、こんな部屋じゃ友達も誰も呼べねぇ…。
「僕の家で育てるよ」
「オレ、通い婿?」
「将来的には他に部屋を借りて、一緒に住もう。…僕の性別がハッキリしたらね」
「オマエもう女だって〜。だって子供産むんだぜ?」
「僕が女の方が嬉しい?」
「オマエは…戻りたいのか?」
「どうだろう…分からなくなってきた。ただ、このまま女でいればキミとずっと一緒にいられるから…」
「男に戻っても一緒だって」
「男の僕も…抱ける?」
「…たぶん。男とやったことないから下手かもしれないけど」
ははは…と笑うと、塔矢も笑ってくれた。
「よかった…それなら安心だ」
「なんだよ〜戻りそうなのか?」
「さぁね…」
後で思うと塔矢は予感してたのかもしれない。
こんな夢みたいなこと、一生続くはずがないって…――
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