●CHANGE 6●
****第六章 一生一緒に ヒカル****
塔矢と付き合い出して以来、完全にアイツが女としか見えなくなってしまった。
でも、棋院ではもちろん男を演じている塔矢。
胸を隠す為に巻いているサラシがやけに窮屈そうで気の毒だった。
「大丈夫か?」
「平気だ。キミが思ってるほど苦しくないんだよ、これ」
「そっか…ならいいけど」
塔矢が眉を傾けてきた。
過剰に心配したり、優しくしたりしたら最近コイツがする表情。
女扱いしないでくれ!僕は男だ!という顔。
分かってるよ。
分かってるけど……今は女じゃん。
しかもオレの彼女じゃん。
自分の彼女を心配して何が悪いんだよ!
「僕は…キミのライバルだよね?対等だよね?」
「当たり前だろー。棋力に男も女も関係ないし」
「なら…いい」
ライバルだけど、恋人。
いい関係だよな〜とうっとりなる。
「アキラ〜」
芦原さんに呼ばれて、塔矢がオレのもとを離れていった。
無理に低い声にして周りと話してるから、自然と小さな声になり不自然極まりない。
でも、最近はそれに塔矢も周りも慣れてきたみたいで、研究会とかには再び積極的に行き出してる。
いいことなんだろうけど心配だ。
バレたら面倒なことになるのが分かってるくせに……
「今日でちょうど50日…か」
夕方――オレの部屋で一局打ってる時に塔矢が呟いた。
「はぁ…いつになったら戻るんだろう…」
「戻りたい?」
「当たり前だろう?」
「ふーん…」
「進藤…?」
碁盤の前に綺麗に正座してる塔矢の後ろに周りこんだ。
服をめくって――サラシをくるくる解いていく。
次第に現になる膨らんだ胸を、手で包み込んで揉み始めた。
「でもさー、戻ったらこれ無くなるんだろ?勿体なくねぇ?」
「…胸が膨らんでない僕には興味ないってことか?」
「オマエだから興味なくはないと思うけどさ……オレはホモじゃねーから自信ない…」
「じゃあ…男に戻ったら別れる?」
「やだよ。…でも、いずれそうなるかも…。オレ子供欲しいもん…男のオマエとじゃどう頑張っても無理だし…」
「………」
だから、ぶっちゃけオレは一生塔矢にこのままでいてほしい。
塔矢が女なら全て上手くいく。
コイツには申し訳ないけど……
「……塔矢?」
大人しくなった塔矢の顔を横から覗き込むと――涙が滲んでいた。
「ご、ごめんっ!ごめんな、オマエは男に戻りたいのにオレ…」
「進藤……」
「オマエのことは誰より一番好きだよ!ただ…オレ一人っ子だし…その…」
涙を振り払うように頭をブンブン振ってきた。
「謝ることじゃない。キミは正しいよ。僕だって同じだ。僕だって…程よい歳になったら適当な女性と結婚するつもりだった…子孫を作る為に」
「そっか…」
一瞬ズキッて胸が痛んだのが分かった。
塔矢が他の奴と結婚する。
オレだってそのつもりでお互い様なくせに……なんかショックだ。
ショックどころか嫉妬。
怒りさえ込み上げてくる。
塔矢を他の奴に取られたくない。
渡したくない。
「…なぁ塔矢。オレら、子供作れないのかな…」
「え…?」
「一応今の体の性別は男と女なわけだろ?出来る可能性はあると思わねぇ?」
「まぁ…そうだね。可能性は低いけど」
「試してみようぜ!オマエが産んでくれたら、もし将来男に戻ったとしても、他の奴と結婚しなくてすむし」
「僕が産んだら…キミは他の女性と結婚しない?」
「しない。だからオマエもするなよ」
コクンと頷いてくれた塔矢をすぐにベッドに引っ張っていき、押し倒した。
そうだよ。
塔矢が産んでくれたら他の女なんか必要ない。
塔矢だって結婚しない。
これはもしかしたら神様がくれたチャンスなのかも。
なら、絶対に成功してみせる。
何がなんでも孕ませてみせる―――
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