●CHANGE 3●





****第三章 女になった日  アキラ****



何度寝ても覚めない夢。

今日も起きて、自分の体を確認して………溜め息が出た。

はぁ…


「……ん?」


何だか下半身がやけにヌルっとしたので、見てみると……




「ぎゃーーっっ!!!」




「塔矢っ??!」


僕の悲鳴に、客間で寝ていた進藤が飛んできた。


「進…進藤…っ、血…が…血が…」

「血?」


パジャマどころか布団にまで血の海が広がっている。

真っ青な僕の顔とは正反対に、進藤は頬を赤めた。


「僕…僕…死ぬのかも…」

「いや、塔矢これ…生理じゃねぇ?」

「え…?」


そっと女性の一番大事な部分に触れると、確かにそこから出血しているみたいだった。

生理…。

この僕が生理…。

外見だけでなく、体の中までついに僕は女性になってしまうのか……


「ナプキン…買ってきてやろうか?」

「あ…ああ…すまない…」


ショックで動けない僕の代わりに、進藤がコンビニに走ってくれた。

その優しさにじんわりと涙が滲むと共に、胸がもう張り裂けそうになる。

彼への想いが…女性の体になってから一層大きくなってる気がした。

その想いだけが唯一の救い。

僕の心を平常にしてくれる。

一生このまま戻らなくても、それはそれで進藤と結ばれることが出来るかもしれないと期待が持てる。

そう考えると満更嫌じゃないかも……なんて。








「ほい、ナプキン」

「…ありがとう。ごめんね…恥ずかしかっただろう?」

「死ぬほど恥ずかった。つーかめちゃくちゃ種類あってさ、どれ買ったらいいのか分かんなかったから適当に買ったぜ?」

「そんなの僕も分からないし…」


ビニールを開けて、一つ取り出してみた。

付け方なんてもちろん分からないけど、たぶん赤ん坊のパンパースとよく似たものだろう。

進藤を追い出して、新しい下着に付けてみた。


「…オマエもしかしてブリーフに付けてんのか?」

障子越しに聞いてくる。

「当たり前だ。トランクスだとどう考えても無理だろう?」

「そうじゃなくてさ、買えよ…女ものの下着」

「僕は男だ」

「分かってるよ。でも今は女だろ?郷に入っては郷に従えっていうじゃん?」

「……」

「それとさ、やっぱ明子さんにだけは話した方がいいんじゃねぇ?」

「母に…?」

「オレら女の体のこと何にも知らないじゃん?相談する相手は必要だと思う」

「……」


確かに、同性の味方は必要だと思う。

だが、仮にも17年間僕を息子として育ててくれた母親だぞ?

なんて説明すればいいんだ?

息子が女になってショックを受けない親なんかいないよ……












「アキラさん…!」

「お…お母さん…?」


数日後――呼んでもないのに母が北京から帰国した。

躊躇う僕の代わりに進藤が電話してくれて、全て話してくれたらしい。


「あら…あらあらあら。本当に女の子になっちゃったのねぇ…」

「すみません…」

「謝ることないのよ。アキラさんはアキラさんですもの。楽しみが増えるだけよ」

「楽しみ…ですか?」

「ええ。午後から必要なものを買いに行きましょう。アキラさん、今ブラジャーも着けてないんでしょう?垂れちゃうわよ?」


ぶ…ブラジャー…。


「身長は変わってないから、着飾りがいがありそうね。お化粧もしたらきっとモデル並よ」


お化粧……


「お母さん…何だか楽しそうですね」

目眩がしてきた。

「ふふ。アキラさんには悪いけど、私本当は女の子が欲しかったのよ。嬉しいわ〜」

「はは…」

「あ。それから、囲碁の勉強の為かもしれないけど、もう進藤さんを泊めちゃだめよ?」

「え…?」

「もう異性なんですから、これからは一線を引いてね。越えるのは恋人だけよ」

「……」


進藤が異性……一線……恋人……

かあぁと赤くなる僕を見て、母がクスリと笑った。


「お母さん…でも僕、まだ完全に女になったわけでは…。また戻るかも知れないし…」

「そうかもしれないけど、今は女性でしょう?女性としての自覚を持ちなさいね」


そんな自覚……持ちたくない……











「あら、これも素敵ね。こっちはどう?これも着てみて」


午後から母に連れられ、いくつものデパートやショップを梯子するハメになった。

女の子って大変なんだな…と改めて思う。


「その服はどう?アキラさん」

「う…ん」


だけど、鏡に写った着飾った自分を見て、自惚れじゃないけど満更悪くないと思う。

もっと男の女装姿を想像してたんだけど、鏡に写ってるのはどこからどう見ても女の子。

骨格も変わったからだろうか……


「本当に色が白くてお綺麗なお嬢様ですわね。何を着てもお似合いですわ」

「ほほほ」


とりあえず、今まで見たことのないくらいの母の上機嫌ぶりに、親孝行のつもりで大人しく従った。

下着からコート、靴に至るまで全て新調した後、化粧品売り場で念入りなメイクレッスン。

美容室で髪型まで弄られた。






「今日は楽しかったわね」

「はは…」


ようやく母は満足したらしく、デパートのカフェで一息つくことになった。


「連れまわしてごめんなさいね。疲れたでしょう?」

「大丈夫です…」

「でもせっかくだから、男性にも見て貰いたいわねぇ」


いえ、そんな恥をさらすことしたくないです。

知り合いに見られたくない。

早く帰りたい。


「緒方さんにも内緒なの?」

「もちろんです。進藤とお母さん以外には秘密です」

「じゃあ進藤さんね。明日、進藤さんとデートしてきたら?」

思わずブッと啜ってた紅茶を吹き出してしまった。


「し、進藤はそんなの絶対に嫌がると思います」

「そうかしら?」

「そうです」

「残念だわ…」


諦めてくれてホッとしたのも束の間、夕方から僕の家に打ちに来た進藤に

「進藤さん、アキラさんね、今日可愛いお洋服たくさん買ったのよ。明日デートしてあげてくれないかしら?」

とか母が言い出した。

「いいですよ」

と即答する進藤を僕が睨みつけたのは言うまでもなかった。



進藤とデートだぁ?

そんなの…そんなの…心臓が持たないよ…―――









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