●CHANGE 2●





****第二章 塔矢が変だ  ヒカル****



塔矢が変だ。

一緒にトロピカルランドに行ったあの日。

あの日以来変だ。


何が変なのかと言うと……とにかく暗くなった。

そりゃ元々そんなに明るい奴じゃないけどさ、それでも他人が何か言ったら前はハッキリと受け答えしてたんだ。

でも今は聞こえないぐらいの小声でボソボソ話すし、誰とも話そうとしないし。

対局開始時間ギリギリに来て、終わったらすぐ帰っちまうから検討も出来ない。

手合い以外の仕事全部断ってるって言うし。


もしかして体調悪いのかな?

明らかに前より痩せた気がするもんな…。

おまけに寒いのかやけに着込んでる。

もしかしてライバルの危機?!

そう思ったオレは、直ぐさま塔矢の家に向かった。







ピンポーン

ピンポーン



電気は点いてるのに応答なし。


「居留守使ってるな…くそ」


庭に回って縁側から中を覗いた。

人影が見える。


「おーい!塔矢〜!塔矢〜!塔矢って!」


人影が動いてこっちに来た。


「進藤…?」


10センチほどの小さく戸を開けて覗いてきた。


「オマエ体調悪いの?」

「…別に」

「ハッキリ喋れよ!男のくせにだらしねー!」


ピシャリッと戸を閉められてしまった。


「うわ、ゴメンって!前言撤回!」

「…帰ってくれ」

「…なぁ塔矢。オマエのことだから何か理由があるんだろ?話してくれよ。納得したらオレ帰るし」

「……」

「嫌なんだよ…今みたいなの。打てないし話もろくに出来ねーし…。オレ達ライバルだけど友達だろ?何でも話してほしいんだ…」

「……」

「そりゃ…オレなんかじゃ頼りにならないだろうけど…。でも、誰かに話すだけでも人間楽になるもんだぜ?」

「……」


再び少しだけガラッと戸を開けて顔を出してくれた。


「やっぱすげぇ痩せてるじゃんオマエ…。大丈夫なのかよ…?」

「ご飯はちゃんと食べてる…。体調は問題ないよ…。ただ…」

「ただ…?」

「………上がってくれ」


躊躇いながらも家に上げてくれた。

こんな時にまで律義にお茶を出してくれる。


「進藤……僕を見てどう思う…?」

「ん…痩せたよな」


改めて全身を見ると、コイツこんなに小さかったか?って思うぐらいに痩せて見える。

ウエストなんか異様。

女並に細い。

ああ…そうか、女みたいな体つきなんだ。

首も細いし肩もなだらか。

胸も微かに出てるし…尻も……………


は??胸??


「オマエなにこれ!シリコンでも入ってんのか??うわ、柔らかっ!本物?!」

「ちょっ…進ど…っ、揉む…な…、ぁ…―」


ドンッと突き放された。


「はぁ…もう。だから、こういうことなんだ…」

「何が?」

「だから……ちょっと手違いで女性の体になってしまったんだ…」

「は…?」



はぁあああああ??!



「なんで??」

「知らないよ!起きたらこうなってたんだ!」

「マジで??」


ええー…なんだそれ。

最近よく性同一性障害とかテレビで言ってるけど…塔矢もそれだったってことなのか?

そりゃ男にしては綺麗な奴だとは思ってたけど……ええー。


「手術も何も無しでいきなり朝起きたら…女になってたのか?」

「そ…そうだよ」

「下も?」

「ああ」

「…ないの?」

「ない」

「うわぁ…」


それはちょっと同情…。


「…じゃあオマエ女流になるのか?」

「は?知らないよ、そんなことまだ…。いつまでこの体なのか分からないし下手に動けない」

「だ…だよな。女流に変更した途端男に戻ったりなんかしたら面倒だもんな…」


というか、天下の塔矢アキラが女になったなんてことが知れたら、囲碁界どころか……もう世界的一大事。

大ニュースかも……


「このこと…隠すんだよな?」

「当たり前だ。戻るまで手合い以外もう外に出ない」

「戻る…のか?」

「……っ」


突然涙を流してきた。


「うわっ!ごめん!戻る戻る!絶対オマエは元に戻るよ!信じろ!」

「…うん」


涙を拭う顔に、思わずドキッとしてしまった。

オレって不謹慎な奴…。


…でも、塔矢って女として改めて見たらすげぇ……いい女なんだよな。

今まで会ったどの女より魅力的。

綺麗。

あのムカつく性格も女なら許せる気がする。

もしこのまま一生女でいてくれたら…絶対嫁にしたい。


………なーんてな。

こんな時に何考えてるだ…オレ…――








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