●CHANGE 1●
※後天性の女体化話となっています。コナンのWパロでもあります(笑)
他の女には簡単に出来てたことが出来なかった。
失敗したくない。
本気だから。
余裕がない。
好きだから。
『彼』が『彼女』になって、初めてオレは恋をした――
****第一章 始まり アキラ****
「塔矢、一緒にトロピカルランド行こうぜ」
全てはこの一言から始まった―――
僕は塔矢アキラ。
年は17。
職業は囲碁棋士(五段)だ。
その日、僕は同じ棋士でありライバルであり友人でもある進藤ヒカルと、トロピカルランドに遊びに来ていた。
何故この僕がよりにもよって進藤なんかとこんな夢の国に来ているのか。
それは至って単純明快。
単に先日彼が愛しの彼女にフラれたからだ。
次のデートの為に用意しておいた入場パスポートが無駄になるのは勿体ない、と僕を誘ってきたのだ。
「男同士だとやっぱちょっと恥ずかしかったな〜」
「なら、奈瀬さんとか他の女の子を誘えばよかったじゃないか」
「やだ。もう女は懲り懲りだもん。和谷を誘ってもよかったんだけどさ、オマエが前にトロピカルランド一度も行ったことないって言ってたの思い出してさ〜」
「余計なお気遣いありがとう」
「でも楽しかっただろ?オレはすっげー楽しかった!」
「……」
笑顔で真っ正面からそんなことを言われて、ものすごく恥ずかしかった。
と同時に心に何か温かいものを感じたのが分かった。
それが何なのかも分かっていた。
いけない。
頭を冷やして冷静になろう。
僕は男で彼も男なんだ。
決してこの想いが叶うことはないのだから―――
僕がこの想いに気付いたのはいつだっただろう。
もうずいぶん前だ。
初めは有り得ないと思った。
男が男を好きになるなんて自然の道理に反してる。
何かの思い違い。
ただ単に彼の碁が好きなだけ。
何度も自分にそう言い聞かせた。
…が、溢れてくる想いは止まらなかった。
むしろ彼に会うほど話すほど打つほど、日に日に彼を好きになっていく。
怖いほどに。
だから、彼に彼女が出来たと知った時はすごく辛かったが、安心した。
よかった。
彼は普通だ。
このまま彼が女性と付き合って僕に見向きもしなければ、一生今の関係を続けていける。
ライバルでいられる。
僕にとってはその方が大事だった。
ずっと彼と打ちたい。
その為ならこんな気持ちくらいいくらでも隠しきれる――
「暗くなってきたなー。もう帰るか?一通り乗るものは乗ったし」
「ああ」
「じゃあちょっと待ってて。オレトイレ行ってくる」
「分かった」
彼が向かったすぐ後だった。
僕は何やらキョロキョロと怪しげな行動を取る男に気付いた。
遊園地には不似合いな黒ずくめな格好。
スタッフでもなさそうだ。
男は周りを気にしながら路地へと入っていった。
「……」
どうしようかと悩んだが、興味か正義感か勝手に足が動いた。
真っ暗な通り。
奥で何やらボソボソと話し声が聞こえる。
そうっと覗くと………怪しげな男が二人、何かを交換していた。
片方のアタッシュケースはたぶんお金だと思う。
ドラマや映画でよくあるパターンだ。
暴力団の麻薬か拳銃か何かの取引なのだろうか。
「――んっ…??!」
突然後ろから抱き込まれ、顔を布で被われた。
一気に意識が遠退いていくのが分かる。
ああ…これもドラマでよくあるパターンだ。
きっと睡眠薬……
くそ……他にも仲間がいたのか……
「…ん……」
続いて口の中に何かを入れられるのが分かった。
水で奥に流される……
「兄貴、何を飲ませたんですかい?」
「何、ちょっとした実験さ。起きたらせいぜい驚きな、お嬢ちゃん」
消えゆく意識の中で聞こえた男達の会話。
いくらなんでもお嬢ちゃんはないだろう!となぜか冷静に突っ込んでいる自分がいた。
僕は正真正銘の男だ………
くそ…体が溶けるように熱い。
このまま僕は死んでしまうのだろうか……
どうせ死ぬなら…進藤に想いを伝えてから死にたかった……
「……ん」
どのくらい眠っていたのだろう。
進藤と帰ろうと話していたのが18時。
今は……20時か…。
「そうだ!進藤っ!!」
時計を見るなり慌てて体を起こした。
くそっ…体が辛い。
痛い。
重い。
もし明日の対局に響いたら、アイツら見つけ出して絶対にぶっ殺してやる!
♪〜♪〜♪〜♪〜
〜♪〜♪〜♪〜♪〜
ピッ
「進藤っ!すまないっ!」
『あーーやっと出たー!ったく、塔矢今どこにいんだよ!?心配したんだからな!』
「ごめん…出口で待っててもらえる?すぐ行く」
『ったく』
重たい体を引きずって、慌てて出口へ急いだ。
よかった。
睡眠薬のせいで体は辛いけど、見る限り外傷はなさそうだ。
頭も正常。
下手に被害届なんか出したら、警察もマスコミも煩いし、勉強時間が確実に減ってしまう。
たいしたことないし、もう忘れてしまおう。
「塔矢ー!こっちー!」
「すまない…っ、ちょっと迷子になってしまって…」
「二時間もか?遊園地一周出来ちまうぞ?」
「…ごめん」
「バツとして夕飯奢れよな。オマエを探し回ったせいでまた腹がペコペコになっちまったぜ」
「ああ、何でも奢るよ。今日誘ってくれたお礼も兼ねて」
「……?」
進藤の足がピタッと止まり、僕の顔をジロジロ見出した。
「なに…?どうかしたのか?」
「いや…何かオマエ声が変」
「声?風邪かな…」
喉に触ると、いつもと何かが違う違和感を感じた。
首が…細い?
柔らかい?
―――お嬢ちゃん―――
あの黒ずくめの男の声が頭を過ぎった。
進藤に背を向けて、慌てて体を触った。
変…変だ!
なんだこれは!
骨格が変わってる?
細くなった?
いやそれより……なによりあるべき所になくて……ないはずの所に…ある。
「塔矢…?」
「ぅわぁ!!?」
ポンッと肩に手を載せられただけなのに尋常ならぬ声を出してしまって、進藤も目を丸くして固まってしまった。
「し…進藤、ぼ…僕…用事思い出した…。タクシーで急いで帰らないと…」
「お…おう。うん。じゃあ…」
「うん…また…」
逃げるようにダッシュでタクシー乗り場へと全力疾走した。
なぜだ?
なぜなんだ?!
あの時飲まされた薬…あれが原因なのか?
いや…そんな夢みたいなこと……
そうだ!
夢だ!
そもそもこんな夢の国になんか、僕が来るわけないじゃないか!
最初から全部夢だったんだ!
はははははは………
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