●CARRY AWAY 8●


オレが塔矢を見つけたのは偶然だった。

ジュースを買いに売店まで行った時、砂浜に降りてくるアイツが見えたんだ。

隣りにいたのは芦原さん。

何だかすげぇムカついた。

ま、そのすぐ後ろに市河さんもいたから、すぐにそのムカムカは治まったけど―。


芦原さんと塔矢ってっ昔から異様に仲がいいから……勘違いしちまうんだよな。

もしかしたら付き合ってんのかな…って。

実際、芦原さんってオレより断然考え方とか大人だと思うし。

塔矢も妙に大人っぽいとこあるから、あれくらいの人の方が落ち着くんだろなって…。


でも、塔矢を抱いたことあるのはオレだけだ。

芦原さんよりオレの方が、塔矢の体については詳しい。

…体だけ…だけどな…―


彼女と遊んでる間も常にアイツの位置と行動の把握を怠らなかった。

だって…アイツ、水着姿なんだぜ?

しかもビキニ。

あんなにおおっぴらに肌を見せまくって……気が気じゃなかった。

少しでも油断したら絶対そこらの悪い男に寄ってこられる!

芦原さん!

市河さん!

ちゃんと見ててくれよな!

つか上着羽織っとけ!



…とか色々思いつつも、もしかしたらオレが一番悪い男な気がする…。

だって、塔矢のあの姿見て…すげぇ想像しちまったし。

彼女にだって、んなこと思ったことねーのに!







「ちょっとお手洗い行ってくるね」

「ああ」

彼女がトイレに行ってしまったので、オレはすぐに視線を塔矢に移した。


すると、どうだよ。

芦原さん達から離れてアイツも一人じゃん!

ちょっと水着の塔矢も近くで拝みたくなって、近付いてみた。

後ろから抱き締めて、

「おねーさん♪一緒に遊ばない?」

と、ちょっとふざけた声のかけ方してみたり。

まさか本気で拒否されるとは思わなかったけど――


「嫌っ!!」

青ざめた塔矢が、オレから逃れようと一気に引き離しに暴れだした。

海水をバシャバシャ顔にかけてくる。


「と、塔矢っ!落ち着けって!オレだよ!」

「え…?」

オレの声に気付いたのか、ゆっくりこっちを振り返った。


「進…藤…?」

「もー、オマエって冗談も通じないのな」

「き、キミがいけないんだっ!普通に声かけてくれればいいのに…」

「はいはい、オレが悪うございましたっ」

でもオレだと分かって安心したのか、力んでいた肩の力を緩めてる。


「オマエも今日来てたんだな」

「う、うん。まぁね、偶然だね」


声が裏返ってるのは気のせいか…?


「キミは…彼女と来たのか?」

「うん、でもトイレからなかなか帰ってこなくてさー」

「ふぅん…」

「暇だから、塔矢相手してよ」

「…いいけど」

「んじゃちょっと探検しようぜ♪こっち、こっち〜」

塔矢の手を引っ張って、波打ち際を歩きだした。



「…オマエもビキニとか着るんだな」

「え?ああ、これ…?お母さんが買って来たから仕方なく…ね」

「すげぇ可愛いぜ」

「……ありがとう」

頬を赤くして、下を向いてしまった。


「…でもさ、そんな格好して一人でウロウロすんなよな。変な奴にナンパされるぜ?」

オレのその言葉に塔矢が眉を傾けた。

「キミより変な人なんて滅多にいないよっ」

「ま、それもそうか」

よく分かってんじゃん。




そのまましばらく歩いていくと、砂浜の最終地点にまで着いてしまったので、浜辺から上がり、雑木林に入った。


「…進藤、どこまで行くんだ?」

「んー…この辺でいいか」

「え?」

怪訝そうな顔を向けてきた塔矢の口に――キスをした。


「…ん…っ…―」

いきなりのことに目を見開いて、オレをじっと見つめてくる―。


「……進、…藤?」

「塔矢…キスん時に目を瞑らねぇのはマナー違反だぜ…?」

「そんなこと…分かってる―」


それより何でキスなんかするんだ?って顔だな。

おいおい…。

キスだけで済む訳ねーじゃん!


「…オレが思うにさ、こういう海水浴場にこそラブホって作るべきだと思うんだよなー」

「は…?」

「だって彼女の水着姿見てさ、その気になる男って五万といると思わねぇ?」

「まぁ…そうかもね…」

「あ、でもむしろこういう所でコソコソするからこそ燃えんのかもなー。やっぱ障害があればあるほど、こういうのって盛り上がるじゃん?」

「…何を言ってるんだ?キミは…」

「分かんない?」

塔矢の体を近くにあった大木に押しつけた―。

そのまま顔中にキスをして、水着の上から胸に触れてみる。


「…ここでヤろうぜ♪」

「え……」

突然の誘いに混乱してるのか、胸に触れてる手を無意味に摘んだり掴んだりしてきた。


「…こんな所で…?」

「うん」

「誰か来ない…?」

「平気だって。こんな所、来たとしても同じ目的の奴らだけだって―」

「でも……進藤、彼女は…?」

「大丈夫。急げば30分で終わらせれるし」

「そういう問題じゃ…」

「もう黙れって。こんな水着着て、オレを煽ったオマエが悪い…」

「…っ…―」

更に真っ赤になった塔矢は、観念したように体の力を緩めてきた―。



彼女なんてどうでもいい。


オレは、今、オマエを抱きたいんだ―。














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