●CARRY AWAY 7●
『もう二度と浮気しないって約束して』
…だって。
笑えるな。
自分はしてるくせに。
公務員の彼と二股かけてるくせに―。
でも進藤は僕がホテルに誘うと、あっさりその約束を破った。
僕があんなことを言ったからかな?
「キミが相手してくれないのなら別にいいよ。他の人を誘うから」
って―。
それを信じちゃうキミは単純だね。
僕がそんなことするはずないのに―。
僕が欲しいのはキミだけなのに―。
そしてまだ安全日だって言ったら、キミは何の疑いもなく中に出してきた―。
いや、本当にそうだったんだけどね。
でもこれで分かった。
嘘をついたら…キミは危険日にも中出ししてくれるだろうってことが―。
早くその日にならないかな――
「和谷〜聞いて〜。オレ今度彼女と一緒に海に行くことにしたんだ♪」
「マジ?いつ?」
――休憩室の前を通ると、またしても進藤と和谷君の声が聞こえてきた―。
…どうも進藤は彼女とのことをいちいち和谷君に報告する癖があるらしい。
「来週の火曜日」
「あー…俺、指導碁入ってるな。残念」
「何だよ、和谷も来たかったのか?」
「まぁな。まだ今年一回も行ってないし」
「じゃあ今度休み合わせてさ、伊角さん達も誘って皆で行かねぇ?」
「お、いいな。他に誰誘う?」
「んー…本田さんに〜越智だろ〜?ふくに〜門脇さんに〜冴木さん。んなもん?」
「女の子は誘わねぇの?奈瀬とか塔矢とか」
「そだな。アイツらも誘うか」
「でも全員の休み合わせるのって大変そうだよなー」
「はは、確かに」
その会話を聞いて、僕は少し嬉しくなった。
僕も誘ってくれるんだ…!
でも喜んだのも束の間――最初の第一声を思い出した。
『彼女と一緒に海に行くことにしたんだ』
くそっ!
今度は海だと?!
また邪魔してやろうかな…。
あの彼女はどうも気に入らないし、ちょうど僕も火曜日は空いてるしね。
思い立ったが吉日。
僕は直ぐさま携帯を鞄から取り出した。
相手はもちろん――
「あ、芦原さん?アキラです」
簡単に世間話した後、本題に入る。
「来週の火曜日空いてません?海に行きたいな〜なんて」
『海?いいよ〜。行こ行こ〜』
「じゃあ詳しいことは研究会の時言いますね」
たぶん場所は去年進藤が前の彼女と行ったのと同じ海岸だろう。
でもあすこは結構広いからな。
芦原さんにも二人を探すのを手伝ってもらおう。
――その日の夕方
一局打った後、進藤が昼間の話を持ち掛けてきた――
「な、塔矢はさ来週の月曜空いてる?」
「何?」
「皆で海に行こうって話してるんだけどさ、塔矢もどうかなって」
「海…?でもお盆過ぎてからは、やめておいた方がいいと思うんだけど…」
「何で?」
「だってクラゲとかいっぱい出てくるし…」
「あ、そっかー。じゃあプールにしよっかな」
進藤が直ぐさま和谷君にメールし出した。
「プールなら行ってもいいよ」
「んじゃ塔矢は参加ってことで」
携帯とは反対の手で、何やら一覧に○印を付けてる。
器用な男だな…。
――そして火曜日
芦原さんの運転のもと、僕と市河さんの3人で海に出発した――
目的の海岸は予想以上の人出で、進藤がどこにいるかなんて全く見当もつかないほどだ。
しばらくキョロキョロ探してたけど、ちっとも見つからないので、諦めて僕は二人と楽しむことにした。
「アキラくん、かき氷食べない?」
「あ、食べたいな」
「市河さーん。俺にもメロンよろしくー」
「はーい」
荷物番の芦原さんを置いて、市河さんと一緒に買いに出かけた。
実は芦原さんと市河さんは付き合っていて、僕の目から見てもお似合いなラブラブカップルだ。
お互いを信頼しあって、支えあって……両親に次いで僕が理想とするカップル。
いいな…。
僕も早くそんな人が欲しい…。
……でも
僕と進藤とじゃ…そうはならない気がする。
だって、僕らの今の関係って……体だけだもん。
気持ちはどこにあるんだろう…。
進藤の気持ちは……彼女にあるのかな…?
「…あれ?あすこにいるの、進藤君じゃない?」
市河さんの声にギクリとした。
恐る恐る彼女の見ている先に顔を向けると――進藤の姿があった。
…もちろん彼女も一緒…
「一緒にいるの彼女かしら?進藤君もやるわね〜」
「……」
「ね、声かけてみる?アキラくん」
「い…いいよ、邪魔しちゃ悪いし…」
「それもそうね」
あれ…?
僕…何しに来たんだっけ…?
邪魔しに来たはずだよね…。
……だけど、彼の楽しそうな姿を見てたら……何も出来なかった。
「市河さん、僕少し泳いでくるね」
「うん、気をつけてねー」
かき氷を食べた後、二人と離れて僕は一人海に向かった。
だって…
明らかに僕ってお邪魔虫だし…。
あーあ。
一人はつまんない。
誰かナンパでもしてくれないかな!
――そう思ったその時だった――
「おねーさん♪一緒に遊ばない?」
僕は後ろから誰かに抱き付かれたんだ―。
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