●CARRY AWAY 23●
僕が躊躇い気味に電話をすると――彼はワンコールで出た。
ずっと待っててくれたのだろうか…―
『…塔矢?』
「…うん」
電話の向こうから安堵の溜め息らしい音が聞こえた。
『もう今夜はかけてくれねぇのかと思った…』
「僕もかける気はなかったんだけどね。キミに文句言ってやろうと思って」
『いいぜ。気が済むまで言いまくってよ…』
「……」
そんな風に言われると……言い辛いじゃないかっ!
「キミ…今どこ?ちゃんと家に帰ってるんだろうな?」
『へへ〜、どこだと思う?』
「え…?」
どこって…
まさか帰ってないのか?!
『実はオマエん家の前にいるんだ♪』
「ええ??!」
慌てて障子を開けると――塀の向こうで手を振ってる彼がいた―。
『…な、入れてよ』
「何言って…。両親が帰ってきてるから無理だ」
『だよなー。さっきオマエの母さんが出てきてびっくりしたぜ。いつ帰って来たんだよ?』
「3日前…」
『あーあ。それじゃあこれから外泊しずらくなるなー』
「……」
微かに顔に赤みが増したのが分かった。
が、頑張れ、僕っ!
進藤に流されるなっ!
『…じゃあさ、塔矢がこっちまで来てよ』
「僕パジャマなんだけど…」
『外に出なくていいから。塀越しに話ししようぜ』
「……分かった」
携帯を切って、僕は進藤のいる塀近くにまで寄ってみた。
僕の身長ぐらいあるこの塀を隔てると、視線を合わせるのが精一杯で……キスも出来そうにない。
「何だかロミオとジュリエットみたいじゃねぇ?」
「どこが!こんな浮気症のロミオがいるものかっ」
「……」
今まで笑ってた彼の顔が一気に真顔に戻った。
「…ごめんな」
「僕はもうキミが信じられないよ!確かにキミが彼女と別れてくれたのは嬉しい!だけど最後の思い出って何だ?!そんなに名残惜しかったの?!僕だけじゃ不満?!僕のことを好きだって言ったくせにっ!!」
「好きだよ。不満なわけがない」
「だったら…!」
「うん、ごめん…。オレが間違ってた…。例え抱いてくれるまで正式には別れないって脅されてもさ…、オマエの為にそれは絶対にしちゃいけないことだったんだ…」
「今更気付いても遅いよ!僕はそれですごく傷ついたんだ!どう責任取ってくれるんだ!!」
「傷ついた分だけ癒してやるよ」
「え…?」
進藤の目がますます真剣になって……同時に何だか熱を帯びてるようにも見える…。
「今夜一晩かけて癒させてよ…」
「何言って…。キミはどうせ僕を抱きたいだけだろ?本当にキミって最低だな。どれだけ絶倫なんだかっ」
「……ダメ?」
「………」
キミって最低の上、卑怯だっ!
そんな可愛い顔して甘えた声で言われたら、断れないじゃないかっ!!
「ぼ、僕は着替えるのは嫌だからな!夜中に家を抜け出すなんてはしたない真似はしたくない!」
「オマエの部屋は…?」
「家には両親がいるって言っただろ?!」
「オレ知ってるんだぜ?オマエの部屋と先生達の寝室が端と端ですげー離れてるってこと」
「……」
「ちゃんと夜明け前には帰るからさ…」
「それじゃあまるで平安時代の通い婚だ…」
「いいじゃん。オレ平安時代大好き」
「………はぁ」
僕は溜め息を吐いて、しぶしぶ門から進藤を中に入れた。
そして僕の部屋に繋がっている中庭から中へ招いてみた。
「塔矢…―」
再び障子を閉めた途端に後ろから抱き締められる―。
髪に耳に首筋に――あらゆる所に唇を押しつけながら――同時にパジャマを脱がされていった―。
「…ぁ…―」
「…塔矢…」
キスされながら胸も揉まれて……僕の思考が徐々に鈍ってきたのが分かる―。
「好きだ…塔矢……愛してる」
「…う…ん」
まるで呪文のように僕の心を惑わす台詞。
何度も何度も言われて、僕は幸せの渦に浸っていく―。
体が布団の上に倒されて、どんなに恥ずかしい格好をさせられても……どんなに恥ずかしいことを強いられても……この台詞の魔法にかかった僕は、どんなものでも受け入れてしまう―。
…でもこれはキミ限定だからね?
キミだけが僕を好きにしていい特権があるんだ―。
だから進藤…
これからもずっとキミに全てをあげるから…
キミだけに尽くすから…
その代わり僕だけを見ていて―
他の人なんか見ないで―
進藤…
僕はキミが…
「…好きだ…―」
NEXT