●CARRY AWAY 13●
「あ、結構広いじゃん」
「本当だ」
プールの後、僕らはチェックインしてそれぞれの部屋に入った。
「夕飯まで私ちょっと寝るわ〜。疲れたー…」
奈瀬さんが倒れこむようにベッドにダイブした。
僕は取りあえずデスク上にあった給湯機のお茶を沸かしてみる。
…外泊するのはあの進藤と泊まったホテル以来だから……妙に気持ちがそわそわする。
彼の部屋はこの部屋の2つ向こう…だったかな。
でも今日はお互い同室の子がいるし……するのは無理かな。
残念…。
そう思ったことに顔が赤面した―。
ざ、残念て何だ!
そんなに彼としたいのか?!
何だか…
自分の破廉恥さに泣けてくる…。
でも……止まらない。
妊娠してなかったら今週末あたりにでも生理が始まるだろうし、それなら今のうちに出来るだけしておきたいというのが本音だ…。
進藤の方はどう思ってるんだろうか…―。
夕飯はホテル内の中華レストランになった。
僕の席は奈瀬さんと進藤の間。
話の中で僕やお父さんのことが話題になると、進藤は無意味に僕の肩に触れたり…擦ったりしてきた。
奈瀬さんの言った通りだ…。
関係を持つ前の僕らは、こんなに自然にお互いの体に触れることはなかった。
やっぱり…悪魔で男女の壁があったから。
でも今はまるで同性の親友のような接し方だ。
いや、同性だとこんなイヤラしい触り方はしないかな…?
「お休みー」
「また明日な〜」
そして夕飯の後、皆と別れてそれぞれの部屋に戻ることになった。
「…あれ?奈瀬さんどこか行くの?」
「うん、ちょっとね〜」
部屋に入るなり彼女は荷物を持って、またドアの方に向かっている。
「じゃあ塔矢、また明日ね〜」
「え…?」
それだけ言うと、早々と部屋を出ていってしまった。
意味が分からず、しばらく茫然と突っ立っていると――チャイムがなった。
ピンポーン
ピンポーン
「あ、はーい!」
勢いよくドアを開けると、そこに立っていたのは―――進藤。
「おっじゃま〜」
「え?進っ…」
断りもなくズカズカと部屋に入ってくる。
「奈瀬から聞いた?」
「え…?」
「オレ、アイツと部屋代わってもらったんだ♪」
え…?
進藤が混乱している僕を、そっと抱き締めてきた―。
「今夜は一晩中一緒だからな…」
その言葉にまたしても顔が赤くなるのが分かった。
でも嬉しさがこみ上げてきて――僕も自然と彼の背中に手を回した―。
「じゃあ…奈瀬さんは伊角さんの部屋に行ったのか…?」
「うん、アイツら付き合ってるしな。今頃きっとイチャつきまくってるぜ」
「そ、そうだったんだ…」
知らなかった…。
あ、だから進藤は今回伊角さんと同室だったのか…。
きっと最初っから代わるつもりだったんだな…。
そんなことを考えている間――進藤は僕の顔のあちこちにキスをしていた―。
そのまま徐々に体をベッドの方に誘導されて――倒される―。
「んっ…、ん…―」
上から優しく唇を啄まれていく―。
同時に服も脱がされて――彼の手が直に僕の肌に触れた―。
「…ぁ…、進…―」
「塔矢…」
進藤が僕の口に手を当てて塞いだ―。
「今夜は両隣り知り合いが泊まってるからさ、あんまり声出すなよ…?」
「そんなの……無理だ」
「無理でも我慢すんの。でなきゃ今夜はお預けだからな」
その言葉に少しムッとした。
お預けって何だ?!
それじゃあまるで僕だけが発情してるみたいじゃないかっ!
キミなんて…キミなんて一度僕に触れると、バカみたいにガッツいてくるくせにっ!
「別にいいよっ!」
「え?」
進藤の体を押し退けて、ベッドから降りた。
「声を殺すなんて無理な話だし、今日は大人しく寝よう」
「え……マジ…?」
進藤が大きく目を見開いた。
「僕こっちのベッドで寝るから、絶っ対に入ってくるなよ!!」
それだけ吐き捨てると、僕はシーツにくるまって――進藤に背を向けた―。
「塔矢…怒ってんのか?」
「……」
「本当に今夜…しないわけ?」
「……」
「なぁ塔矢〜」
「……」
返答がない僕に呆れたのか、溜め息を吐いて鞄を開けてる。
「オレ風呂入るな」
それだけ言うとさっさとバスルームに入ってしまった。
ドアが閉まる音を確認してから、僕は体を起こす。
「進藤のバカ…」
僕は別に淫乱でも尻軽でもないんだぞ?
キミ自身を手に入れたかったから…今まで誘っただけだ。
でも――
『僕だって無性にしたくなることだってあるんだ』
『発情期なだけ』
『キミが相手してくれないのなら別の人を誘うから』
僕が口にした誘い文句は…まるで僕がセックスに飢えてるかのような印象を残す。
進藤がそう勘違いしても無理はない…。
でも本当の僕は身持ちは固いんだ!
今夜…それを思い知らせてあげる――。
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