●CARRY AWAY 12●
「塔矢の水着〜?」
「そ。社、買うの付き合ってよ。男一人じゃどうもそのコーナーに行きづらくて…」
「はは、そりゃなぁ…」
手合いで大阪に行った時、関西棋院で待ち合わせた社にお願いしてみた。
「アイツこの前、海にビキニで泳ぎに来ててさー、もう気が気じゃなかったんだよなっ!だから今度のプールは絶対にワンピースを着さそうと思って」
「あー…あの塔矢やったらどっちも似合いそうやなぁ」
「…おい社。お前想像してんじゃねーぞ!このスケベ!」
「進藤に言われたくないわ」
「う……」
痛いところを突かれて、オレは自販機で買ったコーヒーをガブ飲みした。
「ていうか…お前らって付き合っとったんや?」
「いや、別に?オレ他に彼女いるもん」
「は?」
社が驚いたように目を丸くしてきた。
「いや、進藤、お前…それおかしいで?」
「何が?」
「反対に塔矢の身にもなって考えてみーや。何で彼氏でもない男にそこまで口出しされなあかんねん。何着ようが勝手やん?」
「まぁ…そうだけどさー」
「分かったら、ただの仕事上のライバルはライバルらしく、大人しく見守ってあげ」
「オレらはただのライバルじゃねーもんっ!」
社に少しムッとすることを言われたオレは、直ぐさま否定した。
そうだよ、オレらはただのライバルじゃない。
オレらは…
オレらは………何なんだ?
「ほ〜。ほな何なんや?」
社の方も尋ねてくる。
オレらは…
オレらは……―
「………セフレ?」
「はぁぁあ??!!」
小声でボソリと答えると、社は目を見開いて、聞き直すように耳に手を添えてきた。
「ちょ、ちょー待ちやっ!進藤クン、今、何て??!」
「だからー…………セフレ」
まるで貧血を起こしたように、ふらっと床に倒れる真似をしてくる。
「は…ははははは…、進藤クン、君なに言い出すねん」
「だってそうだろ?!オレら別に付き合ってもねーし、好き合ってもねーのに、やることはやっちゃってるもん!」
「うっわ…ホンマかいな……」
社がはぁー…と大きな溜め息を吐いて、頭を抱えこんだ。
「何やってんねんお前ら…」
「だって仕方ねーじゃん!塔矢がしたいって誘ってくんだし!」
まぁ……3回目はオレの方から誘ったけど…。
「う、嘘やっ!オレの知っとる塔矢はそんなことせぇへんっ!」
「はっ!それはお前がまだ本当の塔矢を知らない証拠だな。実はすげーんだぜ?アイツ」
「へぇ…――ん?待てや?進藤お前…さっき他に彼女おるって言うたよな?ほな、それって…浮気になるんとちゃう?」
「そうなんだよーーっ!!」
泣き付くように社に抱き付いた。
「アイツ浮気なんてバレなきゃいいんだとか言いやがるし、まぁそもそもオレが拒めばいいだけの話なんだけど、アイツの体の虜になっちまったっていうか、とにかく何もかもが最高でもうやめれないって言うかー…」
「た、大変やな…」
社がもう絶句状態で、せめてもの慰めにオレの頭を撫でてくる。
「ほなもう…彼女と別れて塔矢と付き合ったらどうや?うん、それがええわ」
「あー…たぶんそうなりそうな気がするー。つかこのままじゃ結婚する日も遠くないかもー」
「は…?け、結婚っ?!」
「うん…。子供が出来たら……な。オレ、塔矢とヤる時は避妊してねーんだよ」
「な、なんで?!」
「何でって…アイツ安全日だって言うし…。あ、でもこの前危険日にも中出ししちまった」
「は…はははは」
笑いながら社がポンっと肩に手を置いてきた。
「お前らもうどっちもどっちやわ…。お似合いお似合い。結婚式には呼んでな〜」
「…はは」
「あ、奥さんの水着買いに行くんやったっけ?デパートにする?ここからやと阪急が近いなぁ…」
「奥さんとか言うな…」
――結局、社との相談の結果は
『結婚』
という二文字になった。
でも…嫌なわけじゃない。
確かにまだ18だし、早過ぎだけど…結婚したらアイツを独り占め出来るわけだし…。
アイツがもし妊娠したら……それでもいいかも。
でも……しなかったら?
このままずっとしなかったら?
オレは今の浮気の状態を永遠と続けていくんだろうか…。
それはやっぱマズいよな…?
塔矢はともかく桜に悪い気がする…。
でも…じゃあ…どうすれば…―。
――そうこう考えているうちにあっと言う間に月曜になってしまった。
社と一緒に選んだ水着を着た塔矢は本当に可愛い。
ま、前のビキニも可愛かったけどさ、あれはオレの神経と理性が保たないっていうか……とにかくもう二度と着ないで欲しい。
「進藤っ!!」
大声で誰かに呼ばれて振り返ると――奈瀬がプールサイドで仁王立ちしていた。
「何だよ?」
「話しがあるのよ!ちょっと来てっ」
「いいけど…」
しぶしぶ近くまでいくと、いきなり肩をガシッと掴まれた。
「確認したいことがあるのよ」
「だから何?」
「塔矢のことって言えば分かるでしょ?」
「……ああ」
向こうにいる塔矢の方に視線を向けると、心配そうにこっちを見つめていた。
「進藤…、アンタまさか塔矢のこと…遊びだとか言わないわよね?」
遊び、ね。
オレらの関係はそんな簡単に言い表せれるものじゃねぇんだけど―。
「…当たり前じゃん。でなきゃこんなに悩んでねーよ」
「なら…いいのよ」
奈瀬が肩の力を緩めてきたので、今度はオレの方が腕に力を入れて掴んだ。
「…奈瀬はさ、伊角さんと上手くいってんの?」
「当たり前でしょ?ラブラブよ、私たち」
「ふーん…じゃあお願いがあるんだけど」
「え…?」
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