●CARRY AWAY 11●
「塔矢、これ♪」
「……なに?」
進藤から渡された百貨店の袋を恐る恐る開けてみると――水着が入っていた。
「あ、可愛い」
「だろ〜?大阪のデパートでさ、社と一緒に選んだんだぜ」
「へぇ…社と…」
僕の水着を…?
何の為に…?
「今度のプールさ、それ着てこいよ」
「あ、うん…折角だしそうさせてもらおうかな」
進藤の顔には
『絶対にあのビキニは着てくんなよっ!』
と書かれてあるように見えた。
そんなに似合ってなかったのかな…。
「でさ、当日は10時に棋院前に集合な。冴木さんと伊角さんが車出してくれるってさ」
「分かった、10時だね」
「冴木さんと門脇さんは次の日仕事があるから日帰りになるんだけどさ、他の奴は泊まりだから」
「え?」
「塔矢も大丈夫だろ?」
「うん…まぁ…何も用事はないからいいけど―」
「じゃ、これが部屋割り表だから」
「へぇ…早いな」
渡された紙にはスケジュールと部屋割りがまるで合宿のしおり並みに綺麗に書かれていた。
こんなマメなことをするのは…たぶん和谷君だな。
彼はこういうの得意そうだし―。
にしてもいきなりだな…。
こういうことはもっと早く伝えてほしい。
「僕…奈瀬さんと同室なんだ?」
「うん、女ってオマエらしかいないしな。必然的に」
「ふーん」
奈瀬さんとはあんまり話したことないんだけどな…。
「え?オレと同室が良かったって?」
おふざけっぽく言ってきた進藤の顔を睨んだ。
「だ、誰もそんなこと言ってないっ!」
それでも真っ赤になってしまった僕の顔を見て、進藤が笑ってる。
「オレもオマエと一緒が良かったんだけどな〜。残念残念」
「……」
ちなみに進藤は伊角さんと同室らしい。
……珍しいな。
キミのことだから、てっきり和谷君か福井君と同室かと思ったのに…。
「わ、塔矢の可愛い水着〜」
「ありがとう。進藤と社が選んでくれたんだ」
「へー。相変わらず仲いいね、アンタたち」
――月曜日
時間通りに出発した僕らは、プールに着くなり早速泳ぐことにした。
更衣室で着替え終わった後、プールサイドに出て行くと――男性陣はとっくに中で遊びまくっている。
「塔矢〜っ!こっちー」
進藤が手を振って手招きしてきたので、近付いてみると――
「冷たっ…!」
プールの水をバシャっとかけられた。
「何をするんだキミは!」
「へへ〜、塔矢も入ってこいよ。冷たくて気持ちいいぜ」
「うん…」
ゆっくりと爪先から徐々に浸していき、太股まできたところで――進藤に抱き締められるように持ち上げられて…中に引きずり込まれた―。
「やっぱオマエ軽いな〜♪」
「やっ…冷たっ!」
まるで進藤の体温を追い求めるように、僕の方もぎゅっと抱き付くと――進藤の後ろ辺りから咳払いが聞こえた。
「おーい、そこの二人。公共の場でいちゃつくなー」
「彼女に言いつけちゃうよ〜」
和谷君と福井君だ。
「えっ?!フク、それは勘弁」
進藤が慌てて僕の体から手を離した。
「冗談だよ〜。ボク、進藤君の彼女見たことないし。それより水中バレーしよ〜」
「おぅ!しようぜっ」
3人共他の男性陣に合流すべく、中央の方に向かっていった。
代わりに奈瀬さんが僕に近付いてくる。
「男子って元気よね〜」
「うん…そうだね」
少し呆れ気味に笑うと、彼女は僕の方をじっと見つめてきた。
「進藤…彼女いるんだってね」
「え?あー…うん、そうみたい」
「塔矢…じゃないんだ?」
「ち、違います!」
頭を大きく横に振ると、奈瀬さんの方は頭を傾けてきた。
「塔矢って…昔進藤と付き合ってた?」
「え?いえ…一度も」
「ふーん…」
何だか納得いかないって目で見つめてくる。
どうしてだろ…。
「…でも塔矢ってさ、進藤とHしたことあるでしょ?」
「え……」
いきなりそんなことを言われて、一気にカアァっと顔が真っ赤になってしまった。
どうして?!
どうして分かったんだ?!
「あ、その反応は図星かな?」
「ど…ど…どうして―」
「どうして分かったのかって?」
奈瀬さんが小声で僕に教えてくれた。
「男女ってね、一線を超えると触り方が変わるのよ。自然に手が伸びるっていうのかな。どんなに隠しててもやっぱり咄嗟の態度に出ちゃうものなのよね〜」
「あ……」
それを聞いてますます顔が赤面した。
「にしても進藤の奴!付き合ってもないのに塔矢に手を出すなんて、一体どういう神経してんのかしらっ」
「……」
い、言えない…。
本当は僕の方から誘っただなんて…。
おまけに進藤を手に入れる為に孕もうとしてるなんて…。
むしろ…被害者は彼の方だ。
「よしっ!塔矢待ってて!私が進藤に文句言ってきてあげる!」
「え?!な、奈瀬さんちょっと待っ…」
止めようとするも叶わず――彼女は進藤の方に猛スピードで走っていってしまった―。
NEXT