●BUSINESS HOTEL 2●


進藤の泊まってる部屋で初めて聞いた……女の人の喘ぎ声。

驚いた。

まるで耳だけでエッチなビデオを見てる感じ。

この壁の向こうで起こってる光景を想像すると……目まいがしそうだ。


僕がこの部屋に来た時からずっとたってる進藤のアレ。

見たくないけど気になって……チラチラ見てしまう。

結構大きい…?

そう考えるだけで、僕の体が…、それを入れるべき場所が……熱くなってくるのが分かった。


もちろん僕たちは付き合ってもいなければ、お互いを好き合ってるわけでもない。

だけどこのBGMにこの男の人と二人きりという環境が――僕までを煽っていく。


「ごめん、ちょっとトイレ」


進藤がトイレに入った後、僕もすぐに彼の部屋を後にした―。

一秒でも早く、この場所から遠のきたかったから――




バタンッ


自分の部屋に帰った僕は、頭の中に残ってるこの淫らな光景を消す為に碁盤に向かった―。


さっき大阪で打った一局を並べてみよう。

いや、それより一昨日に碁会所で進藤と打った一局にしようか。

いやいや、昨日の棋聖戦の一局の方が勉強になる。

いやいやいや……



「………」



はぁ…。

全然集中出来ない…。

気を紛らわそうとすればするほど……さっきのことを思い出してしまう。

どうして進藤がトイレに入ったのかなんて、いくらあっちの世界に鈍い僕だって分かる。

あの興奮を沈める為だろう?

その為に自分で……したんだろうな。

じゃあ僕も自分ですれば……この興奮を沈めれるんだろうか…。

いや、僕は男の彼とは違う。

そんなはしたない真似は出来ない。

それに仕方もよく知らないし…。

でもこのままだと碁もロクに……




ピンポーン


「あ、はい」

ガチャっとドアを開けると、予想通りの人物が立っていた―。


「フロントで部屋の番号聞いたんだ。さっき一局打つとか言ってたからどうすんのかな…って思ってさ」

「ああ…、じゃあ打とうか」

「うん」


部屋の方に振り替える瞬間に、チラッと一瞬だけ進藤の下半身に視線を向けた。

いつも通り。

もう完全に興奮は治まってるみたいだ。

……ずるいな。

僕の方は全然なのに…――



「…あれ?オマエの部屋ってダブルなんだ?」

「あ、うん。シングルの部屋はもういっぱいだったみたいで…」

「いいな〜。オレも大きいベッドの方がいい」

進藤がダイブするようにベッドに寝そべった。


「な、塔矢。部屋代わってよ」

「嫌に決まってるだろ。キミの部屋は……変な声が聞こえるし…」

「ああ…そうだったな」

進藤が思い出したかのように嫌そうな顔をした。


「あの部屋に帰りたくねぇ…」

「だから、部屋を変えてもらえばいいだろ?」

「でももう他のシングルはいっぱいなんだろ?今日平日だから他ももう全部埋まってるかも」

「………」


体を起こした進藤がベッドの上で胡座をかいて、上目遣いで僕をじっと見てくる―。


「…なぁ塔矢。一緒に寝ちゃダメか…?」

一気に顔がカッと赤くなるのが分かった。

「ふ…ふざけるなっ!ぼ、僕らは異性なんだぞ!一緒になんか寝れるもんか!」

「寝れるって。このベッド広いしさ〜」

「そういう問題じゃない!何を考えてるんだキミは!」

「何をって……言わなくても分かるだろ?」

「え…?」


進藤がいつも以上に真剣なまなざしで僕をじっ…と見つめてくる。

彼にしては珍しいこの間合いの時間の取り方…。

手を優しく握られて…少し引き寄せられた。


「進…藤…?」

「塔矢…、オレ…オマエのことが好きなんだ…」



え…?



「ずっと…ずっと好きだったんだ…」

「………」


突然告白されて、更に真っ赤な顔になってしまった僕を……進藤がぎゅっと抱き締めてきた―。


「…オマエは?オレのこと…どう思ってる?」

「どうって…そんないきなり…。考えたことないよ…」

「じゃあ今考えてみてよ。好きか、嫌いか、何とも思ってないか」

「き、嫌いではない…よ」

「ほんと?」

少し声が明るくなった進藤が、僕の腰を包むように…更に力を込めて抱き締めてきた。

密着してる部分が異様に熱くなる。

胸がドキドキする。

これは相手が進藤だから…?

それとも…初めての体験だから…?


「塔矢…」

「え?――わっ」


抱き締められたまま――ベッドに倒されてしまった。

進藤の下に敷かれているこの光景に…ますます顔が火照ってくる―。


「……嫌?」

「え?何…が?」

「オレと…するの」

「……したいのか?」

「うん…」

「………」


……どうしよう。

嫌ではない。

むしろ……してみたい。

だけどそれは別に進藤のことが好きだとか…そういうわけではなくて…、単に例の声で…僕の体が興奮してるせいかも…。

早く平常に戻りたい。

でもたったそれだけの理由で…彼としてしまっていいのか?


……いや

別のパターンを考えてみろ。

もし進藤以外の他の男性からもそんなことを言われたら……僕はOKするだろうか?

するわけがないだろ!

気持ち悪い!!


でも……進藤となら……――















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