●BUSINESS HOTEL 1●



その夜――

遠征でオレが泊まった部屋は最悪だった――




「マジかよ…。勘弁してくれ…」


普通のビジネスホテルの壁の薄さは半端じゃない。

おまけにこのホテルは大通りから少し入った所に建ってるので、外はシン…―と静まりかえってる。

だから隣りの部屋の音なんか丸聞こえ。

テレビの音はもちろん、風呂の音、そして――

女の喘ぎ声もな!!


「―ぁ…ん、あぁ…―」


生々しい声に居てもたってもいられず、布団をガバッと頭から被った―。

くそっ!

こんなビジネスホテルでヤんなよな!

ラブホでも行ってろ!

バカップルが!!


…と心の中で怒りながらも、耳はダンボ状態の自分に泣けてくる…。

そういやさっきエレベーターでカップルと入れ違いになったな…。

あの二人か…?

女の方は可愛い感じの小柄な子だったよな…。

その子が今、隣りで、横にいた男に好き勝手されてるわけか…。

その様子を想像するだけで自分の体が反応し始めたのがハッキリ分かった。

自然と下半身に手が伸びる――


「あっ、あぁ…っ―」


隣りから聞こえてくる声をBGMに、自らのものを慰め始めた。

目を瞑った後、脳裏に描かれるのは……もちろん好きな女の乱れた姿。

塔矢の…姿だ。

好きだと気付いてからもう何年だっけ…。

2年…いや、3年近いか…?

その間ずっと彼女はオレの自慰の相手。

想像と夢だけならもう何百回も犯してる。

いつか本物にも触れてみたい――

いつか気持ちを打ち明けたい――

いつかオレだけのものにしたい――





ピンポーン



その音にガバッと起き上がった。


だ…誰だ?

こんな時間に…。


音をたてないようにゆっくりとドアに近付き、そうっと覗き穴から覗いてみた―。


うそっ…

塔矢?!

何で……


――と疑問がりながらも、オレの手は勝手にノブを回していた。



「あ、進藤。遅くにごめん」

ドアが開いた途端に笑顔を向けてくれる彼女に…胸が躍る―。

「塔矢…何で名古屋に?」

「今日の夕方まで大阪で手合いがあったんだ」

「それは知ってるけど…」

「ちょうど帰り道だから寄ってみた。僕は明日一日オフだし、キミの対局でも見学させてもらおうかなって」

「ふーん。…で?今日は何か用?」

「冷たい言い草だな。キミと一局打とうと思って、せっかく同じホテルに泊まったのに…」

塔矢が気まずそうに下を向いた。

「あのさ…今何時だと思ってんだよ。オレは明日大事な本因坊戦を控えてんだぜ?もう寝ないと…」

「………」

「塔矢?聞いてる?」

「………」

「塔矢…?」

彼女が下を向いたまま固まっていたので、その視線の先を追ってみた。

すると見事に立ち上がったまま浴衣を盛り上がらせてる自分の性器の様子が目に入ってきた。


忘れてた…!!


「あ、いや…これは…その…」

慌てて体を後ろに向ける。

「オ、オレのせいじゃねーからなっ!隣りが悪いんだ!隣りが!」

「え…?」

「来てみろよ!」

塔矢の手を掴んで部屋の中へ引っ張っていき、隣りの喘ぎ声を聞かせてみた。


「やぁ…、あぁ…っん―」


「え…?何…この声…」

「隣りの部屋のカップルがヤってんだよ!ったく、冗談じゃねぇ!」

「ヤって…って…」


途端に真っ赤な顔になる塔矢。

かなり…可愛い。


「フロントに電話して部屋変えてもらったら…?」

「ん?ああ…そうだな。何番だっけ…」


ホテルの説明ファイルをパラ見して、フロントの番号を探している間も――ひたすら聞こえる隣りの喘ぎ声。

ベッドが軋む音。

それだけでも興奮して来るのが分かるのに……おまけに横には大好きな塔矢。

しかも二人っきり。

絶好の環境に、どんどん自分の下半身が堅さを増して来る。


やべぇ…。

早く出したい…。



―――どこに?



そりゃあ…出来ればもちろん塔矢の中に。

つっても実際にはゴムの中だけど…。

でも今日は持ってねぇから…外出しになるな。

あ、でももし安全日だったら中に出したいな。

塔矢の中をオレでいっぱいにしたい。


……なんてな。


想像力だけはご立派なオレの頭に笑える。

でも……マジで今の状態はキツいかも…――




「進藤…?」

「ごめん。ちょっとトイレ」


さすがに塔矢の前でするわけにはいかないので、慌ててバスルームに駆け込んだ―。

浴衣のすき間から顔を出させた自分のものを、何度も擦りながら絶頂へと導いて行く―。


「――…っ…ぁ―」


すぐに訪れた快楽は確かにものすごく気持ちいい…。

けど……物足りない。

バスタブの中に飛び散った自分のアレを見て……溜め息が出る。

軽く洗い流して、早々とバスルームを出た。



「あれ?塔矢…?」




再び戻って来た部屋に――塔矢の姿はなかった――















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