●My BROTHER, My SISTER 9●
付き合うことになった僕と進藤。
僕には一つ気になることがあった。
でも、聞きたいけど……聞きたくない。
そんな感じの事。
「…ね、進藤。一つだけ聞いてもいい?」
「ん?」
「いいよね?僕はもうキミの恋人なんだから、聞く権利があるはずだ」
「何だよ?真剣な顔して。恐いなぁ…」
深呼吸して、僕は心を落ち着かせた。
今、キミに彼女がいないことは聞いた。
じゃあ……昔は?
「キミって…、やっぱり…その、見た目通り……なのか?」
「はぁ?見た目通りって?」
「あ…遊んでるの?…女の人と」
彼の眉が一瞬だけ動いた。
不快そうな表情。
そりゃあこんな言い方されたら不快だろう。
「…遊んでねーよ。彼女だって、オマエが初カノだし」
「え?そうなんだ…?」
「………」
「…進藤?」
「……でも、ごめん。彼女はいたことないけど……あっちの経験はそれなりにある」
「………」
「母さんが亡くなった後…ちょっと自暴自棄になった時期があってさ。何か…手当たり次第にナンパして、仲良くなったコとホテル行って…を繰り返してた。家に全然帰らなかったんだ。いや…帰りたくなかった」
「………」
「だってそうだろ?帰っても誰も待ってないんだぜ?意味ないじゃん。父さんは相変わらず仕事仕事だったし、何ヶ月も誰も止めてくれなかった…」
「……ごめん。全然気付かなかった。僕も親の離婚でゴタゴタしてたし…キミは手合いには出てたから」
「出るよ、決まってんじゃん。あんなに母さんに心配かけまくってなった棋士なんだぜ?それまで辞めちまったら…オレは何の為に…―――」
タバコもお酒も女性との仕方も、その時全部覚えたという進藤。
エスカレートして買春や売春までしてたらしい。
耳を塞ぎたくなる話だったけど、僕は一語一句聞き逃さなかった。
あんなに近くにいたのに全然気付かなかった…僕にも責任があるような気がしたから……
でも、今は全部してないよね?
何があったの?
「18の誕生日にさ、父さんからメールが入ったんだ。『ご馳走作って待ってるから帰ってこい』って。でも期待したオレがバカだった。これがご馳走?!罰ゲームの間違いだろ!!ってなぐらい酷い出来でさー、唯一食べれたのが買ってきたケーキ。もう笑うしかなかったぜ」
「ふぅん…」
「でも父さんも負けず嫌いだからさ、料理教室まで行きだしてさ?……で、明子さんと出会ったのかな?」
「そうみたいだね」
「父さんの料理、最初はすげーまずかったんだけど、オレの為にわざわざ時間割いて頑張って作ってくれる、その気持ちが嬉しかったんだ。だからオレも次第に真っすぐ家に帰るようになってさ、家事も手伝うようになった」
「今も手伝ってくれればいいのに」
「え??やだよ。オマエがいるのに」
「僕ってキミの何?」
「恋人。彼女。でもって、ライバル、家族、妹。あと、未来の奥さん?」
「奥さ…っ??―――!」
突然キスされた。
初めての僕向けの優しいキス。
今度は拒否しないで受け止めてみた。
…ううん、キスだけじゃない。
僕はキミの全てを受け止めるよ。
キミの過去も、今も、未来のキミも。
これからも一緒に頑張っていこう。
「…親がしばらくいないのってラッキーだよな」
「え…?」
「オレ、彼女はいたことないから手順がよくわかんないんだけどさ…、付き合い始めたその日にするのって早いのかなぁ?」
「…したいんだろう?」
「うん、したい。塔矢の全部が欲しい。今すぐ」
「……いいよ」
僕もキミの全てが知りたい―――
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