●My BROTHER, My SISTER 7●
「おめでとう、お母さん」
「ありがとう、アキラさん」
8月―――母の悪阻が治まったのに合わせて、両親の結婚式が赤坂のホテルで行われた。
二人共二度目の結婚式だから、今回は家族だけの挙式と、簡単な食事会だけとなった。
僕の父との結婚式の時も…母は今のような表情をしてたのだろうか。
幸せそう。
実際、幸せなのだろう。
再び働き出して、恋をして、その人の子供も身篭って、結婚して……
仕事を始めるだけなら、離婚なんてする必要はなかった。
母の言う第二の人生とは、もう一度恋をすることだったんだと思う。
新郎側にいる僕の恋の相手の様子を、こっそり伺ってみた。
仕事の時とは違う白のネクタイ。
じっと壇上の二人を見つめていた。
あ、欠伸。
やる気ないなぁ。
ん?こっち見た。
なに?じゅうご…の…よん?
15の四??
馬鹿かキミは!挙式中に碁を打つつもりか!!
とか怒りながらも、僕の口は「4の三」と勝手に口パクしていた―――
「じゃあ留守の間お願いね」
「うん、行ってらっしゃい」
翌日から両親は三泊四日の新婚旅行に出かけて行った。
夏の北海道でゆっくり過ごすんだとか。
つまり、その間は進藤と二人きりになるわけだけど……
「塔矢!打とうぜ♪」
「待って、洗濯と掃除機だけ終わらせてしまうから」
「え〜」
「早く打ちたいなら、キミも手伝ってよ」
「え〜〜〜」
この家に来てから、家事を全くしようとしない進藤。
いいように使われてるみたいでムカつく。
でもまぁ…将来の為の予行練習だと思えば、そんなに嫌ではないけど。
もしこれで進藤に彼女がいたりなんかしたら、絶対に手伝わせるところだけどね。
(八つ当たりだ)
でも、一緒に住んでずっと一緒にいるから分かった。
彼に彼女はいない。
どう考えもフリーの男の生活スタイルだ。
でも……彼女はいなくても、好きな人はいるのかな…。
どうなんだろう……
「進藤って…」
「え?」
「進藤ってさ、彼女いないだろう?」
「……だから?」
ほら、いない。
「オマエだって彼氏いないだろ?」
「でも好きな人はいる」
「……え?」
今までソファーで寝そべっていた彼が、体を起こしてきた。
まるで興味津々みたいに。
「へぇ…そうなんだ。誰だよ?」
「秘密」
「言えよ。お兄様に隠し事する気か?」
「普通妹は兄にそんなこと教えたりしないよ」
「いいじゃん、オレら普通の兄妹じゃないし。親の連れ子同士だし」
「じゃあ、キミも教えてくれるのなら、僕も言ってもいいよ」
「は?」
「キミだって、好きな子のひとりぐらいいるだろう?もうハタチなんだし」
「そりゃ…いるけど」
ふぅん…いるんだ……
「誰?」
「…言ってもいい?」
「うん」
「オマエ」
「――え…?」
僕…?
え?
え?え?え?
「ほら、言ったぜ?オマエも言えよ」
え?え?
ええ??!
「言ったぜって…キミ…」
思ってもなかった告白に、僕の顔はたちまち真っ赤になっていった。
「早く言えよ」
「だって…、だって…、嘘…だよね?」
「嘘なわけないだろ?」
「だって僕ら…兄妹だし」
「だから、普通の兄妹じゃないだろ?オマエが言ったんだぜ?オレとオマエは結ばれても近親相姦にはならないって!」
「あ、当たり前だっ。ていうか…近親…相姦って…」
進藤が僕に近付いてくる。
目の前まで来た。
おまけに、抱きしめてきて……
「進…藤…」
「さっさと言えよ。約束だろ?オレが言ったらオマエも言うって」
「う…ん…」
まだ言ってないのに…今にもキスしそうなぐらい顔を近付けてくる。
鼻があたらないよう顔を傾けて――
「わ…」
「ん?誰?」
「わ…わ…わぁああーっ!!!」
唇がくっつく寸前で、僕は進藤の体をドンッと押した。
叫んで、一目散に自分の部屋に逃げこんだ――
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