●My BROTHER, My SISTER 6●
「行ってらっしゃい、正夫さん」
「行ってきます」
毎朝キスをして出勤する両親を見たら、オレと塔矢はゴホゴホ咳ばらいしてその場を切り抜けるしかない。
つーか、いい歳した大人が行ってらっしゃいのチューってどうよ??
いや、新婚に歳は関係ないのかー??
「おはよー、和谷」
「…はよ」
「?何だよ?」
「ちょっと来い、進藤」
棋院に着くなり、眉を潜めた和谷に引っ張って行かれた。
「お前、最近何で塔矢と一緒に出勤してくるんだよ?」
「何でって…」
「まさか一緒に住んでるのか?」
「……住んでるけど」
「マジで??」
オレらの親の再婚はもちろん周りには言ってない。
塔矢は今でも『塔矢アキラ』だ。
(でも戸籍上の名前が進藤アキラって…超萌えるよなぁ♪)
「いつから付き合ってたんだよ?全然気付かなかった」
「べ、別に付き合ってねーよ」
「は?だって同棲してるんだろ?」
「ど、同棲じゃねーしっ。ただの同居!親も一緒!」
「はああ??」
それ以上は話さなかった。
和谷や伊角さんぐらいには本当のことを言ってもいいような気もしたけど、もし広まっちまったら面倒なことになるし。
塔矢も緒方先生にしか話してないらしい。
「進藤、帰ろう」
「おう!」
来る時も帰る時も一緒なオレら。
同じ職業だから手合いの日は当たり前なのかもしれないけど、オレらはそれだけじゃない。
ほとんど同じ研究会に顔を出してるし、招待されるイベントやセミナーも結構一緒になることが多い。
家に帰ったら夕飯までずっと打ってるし、夕飯食べたら寝るまでまたずっと打ってるし。
つまり、朝から晩までずーーっと一緒ってことだ。
「うーん…改めて考えると、これって絶対普通の兄妹以上だよなぁ…。つか、恋人以上?もし塔矢に告って、もし上手くいっちゃったりなんかしたら、更に寝るのも一緒になるのかも……すげぇ」
「さっきから何ブツブツ言ってるんだ?先にお風呂入ってきてもいい?これ打ちかけにしておくね」
「お、おう。いいよ。オレはテレビでも見てくるっ」
でもって風呂も一緒?
嬉しいけどさすがに息詰まるかなぁ…?
「明子、悪阻は?」
「ええ、大丈夫。今日は結構気分いいのよ」
「よかった」
リビングに行くと、父さんと明子さんがいた。
悪阻が酷い明子さんを気遣う父さん。
肩に手なんか回しちゃってる。
寄り添って、息子のオレの目から見てもラブラブな二人だ。
父さん似のオレと、明子さん似の塔矢。
まるで20年後のオレらの姿を見てるみたいだった。
20年後……オレはどこでどうしてるんだろう。
この両親みたいに、塔矢と寄り添えてるのかな…。
それともいつも一緒の塔矢にウンザリして、恋人は他で探しちまうんだろうか…。
……うわ、やだやだやだ。
絶対嫌だ!
前者がいい!
塔矢がいい!
塔矢とずっといたい!
いいじゃん、朝から晩まで一緒。
今の生活になって、新しく知った塔矢もいっぱいいるし。
きっとまだまだ知らないこともある。
「進藤?出たよ。キミも入れば?」
「あ……うん」
お風呂上がりで、まだ髪が濡れてる塔矢がバスルームから出てきた。
すげー…色っぽい。
と、とりあえず…オレはこのパジャマの下をまだ知らないわけだし。
塔矢の肌を知らないわけだし。
それを知るまでは死んでも死に切れないぜ!
塔矢曰く、オレらは兄妹だけど血の繋がりがないからシても問題ないらしいし。
塔矢はオレのこと…どう思ってるんだろう?
―――オレは…好きだよ―――
部屋に向かう彼女の背中に、密かに心の中で訴えてみた―――
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