●My BROTHER, My SISTER 19●







「ただいまー」

「お帰り、ヒカル、アキラさん」


二人揃って家に帰ると、お父さんがリビングで新聞を読んでいた。

そういえば今日は土曜日。

お父さんは仕事がお休みの日だ。



「お疲れ様。今回は静岡でセミナーだったらしいな?」

「ん…まぁね。父さん、それより実は話があるんだけど…」

「なんだ?」

「…明子さんは?」

「明子は買い物だ。もうそろそろ帰ってくる頃だと思うが」

「そ…っか。じゃあ先に父さんにだけ話すよ」

「何だ?改まって」



僕と進藤はお父さんと向かい合って、ソファーに並んで座った。


ずっと言えなかった親へのカミングアウト。

緊張する。

進藤も同じみたいだった。

彼の指先が少し奮えている。

僕はそんな彼の手に、自分の手を重ねてあげた。

大丈夫…と微笑む。

大丈夫だよ、僕らの親なんだから。


きっと祝福してくれる――




「実は…さ、オレとアキラ……夏頃から正式に付き合ってるんだ」


進藤はあえて僕のことを「アキラ」と呼んだ。


「そうだったのか…。いや、全然気付かなかったよ」

「…隠しててゴメン」

「はは、そうだな。もっと早く言ってほしかった。家族じゃないか」


お父さんはやっぱり少し驚いたみたいだったけど、顔はにこやかだった。

よかった。

反対はしてないみたい。


「でさ………結婚も考えてるんだ…」

「結婚?」

「うん…、出来れば早いうちに…。その、アキラのお腹に…子供がいるんだ。さっき判って――」






ガタン





突然の物音に、僕ら三人はバッとその音の方向に顔を向けた――



お母さんだった。

お母さんが買った荷物を床に落とした音。

いつ帰ってきたのだろう。

全然気付かなかった…。



「明子。帰ってきてたのか、お帰り」


お父さんがお母さんに駆け寄って、落ちた荷物を拾ってあげた。


「…ただいま。何の話してましたの?」

「ヒカルとアキラさんが話があるそうだよ。明子も一緒に聞いてあげよう?」

「今…子供がどうとか聞こえたんですけど?」

「うん、二人は結婚を前提に付き合ってたみたいでね、子供が出来たから早めに結婚したいんだって」


別に結婚を前提に付き合ってたわけじゃないけど……そういうことにしておいた方が聞こえがいいのかな?

ま、いいか。


「ほほ…」

とお母さんが笑ってきた。

よかった、お母さんも笑ってくれた。

反対はしないみたい。



そう思ったその瞬間だった―――




「冗談でしょう?」






―――え?






「嫌だわ、何言ってるの?付き合ってる?子供?ふざけないでちょうだい」

「お母…さん?」

「だってあなた達は兄妹なのよ?何を馬鹿なこと…」

「た、確かに兄妹ですけど、親の連れ子同士の結婚は法律でも認められてますし…問題ないはずです」

「アキラさん、連れ子とかそんなの関係ないの。あなた達は兄妹なのよ」

「だから…っ」

「考え直して。ね?今ならまだ間に合うわ。今何週目?」

「え…、14週…ですけど」

「そう。じゃあ早い方がいいわね。明日にでも堕ろしに行きましょう」





……は……?





「お母さん…何言って……」


この母親は一体何を言ってるのだろう。

僕も進藤もお父さんも耳を疑った。


「この話はもう終わり。馬鹿馬鹿しいわ」

「お母さん?!」

「病院予約しておくわね。私の行ってる産婦人科でいいわよね?」

「お母さんこそっ!さっきから何馬鹿なこと言ってるんですか!?僕は堕ろすつもりはありませんし、進藤と結婚します!」

「兄妹が結婚出来るわけないじゃない」

「だから……っ」

「兄妹なの。兄妹なのよ…アキラさん」

「お母さ…ん…?」


お母さんの目から涙が滲んでいるのに気付いた。



お母さん……?



「兄妹なの。本当の…兄と妹なの。あなたとヒカルさんは…血が繋がってるのよ。だから…無理なのよ…」





……え……?






「――……っ…」


「明子っ?!」


お母さんが突然お腹を押さえて苦しみ出した。

お父さんが明子さんを直ぐさま支えてあげている。

僕と進藤は茫然と立ち尽くしたまま……動くことが出来なかった。



僕と進藤の血が…繋がってる……?


なに…それ……


嘘…だよね……?








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