●BEST FRIEND 1●
僕と進藤は親友だ。
仕事ではライバルかもしれないが、私生活では良き友。
何でも言い合えるし、一緒に遊びにも買い物にも行くし、恋の相談にだって乗っちゃう。
まぁ…恋愛の相談(というか単なる惚気)を持ちかけてくるのは進藤の方ばかりだけど。
少し悔しいから、僕も彼氏を作ってみた。
後援会から紹介された人で、学歴もよくて格好よくて、おまけにすごく優しくて大人な商社マン。
何度か食事のデートをして、ついにキスもしてしまった。
だけど………残念なことに何も感じなかった。
ただ唇がくっついてるだけ。
気持ち悪いとさえ思った。
――助けて…進藤――
とっさに浮かんだ彼の名前に愕然となった。
僕…進藤のことが好きだったのかも……
「塔矢塔矢、オレ今度彼女にプロポーズしようと思うんだ」
「――え?」
だけど現実は残酷なもの。
僕が彼氏と別れたばかりだってのに、嫌味とばかりに惚気は続いていた。
今の彼の彼女は…美人で頭がよくて背が高くて綺麗で性格も可愛い…オレには勿体ないぐらいの女!…らしい。
「け…結婚なんて…、キミの歳だとまだ早いんじゃないのか?」
「えー?でもアイツ以上の女ってもういないと思うんだよなー。早くキープしとかないと」
「…キミがそう思うなら別に反対はしないけど。キミには家族を養っていけるだけの経済力も十分あるし…きっとご両親も承諾してくれるよ
」
「オマエにそう言ってもらえると心強いや。でさ、プロポーズにはやっぱ指輪が必要じゃん?塔矢買うのつきあってよ」
「ぼ、僕が?」
「親友だろ〜?」
「……分かった…よ」
しぶしぶ行きたくもないブライダルジュエリーショップについていった。
何が悲しくて…好きな人のプロポーズの準備なんか手伝わなくちゃならないんだろう。
涙が出そうだ。
「婚約指輪でしょうか?それとも結婚指輪…」
「あ、婚約の方で」
「ご案内します」
店内に入ると、当たり前だけどお客さんはカップルだらけだった。
結婚指輪を二人で選ぶのは当前だろうけど、今はエンゲージリングも二人で選ぶ人が多いのだとか。
案内されるがままに説明を聞いて、選んで、ふと我に帰る。
「塔矢はどんなのが好き?」
「進藤!僕が選んでどうするんだ!彼女を連れてこないと意味が…」
「大丈夫。オレの彼女、オマエみたいな地味〜な女だから。感性も趣味も同じだよ、きっと」
「そんな適当な…」
「それよりオマエの指細いなー、何号だよ?」
「え…8…かな。7かも」
「お調べしますね」
スタッフの人が僕の指にいくつもの輪を通し始めた。
そりゃ…知ってて損はないけど、僕の大きさなんて今は関係ないのに。
「8ですね」
「8だって。オレの彼女と一緒だな」
「……そう」
悩むこと一時間。
ようやくリングもダイヤも決まり、申し込みに入った。
「裏側に刻印も入れられますか?」
「えっと…塔矢、向こう行ってて」
「どうして?」
「いいから。恥ずかしいじゃん」
「……」
恥ずかしいって…入れるのはイニシャルか日付ぐらいだろう?
何が恥ずかしいのだろう。
全くもって理解出来ない進藤から離れ、一人で今度は結婚指輪を見ることにした。
シンプルで綺麗。
大きさの違うペアリング。
僕のペアになる人は…一体誰だろう。
幸せそうに指輪を選んでるカップルを見ると……無性に寂しくなった。
「塔矢〜お待たせ。帰ろうぜ」
「…申し込み終わった?」
「おう!出来上がるの一ヶ月後だって。楽しみ〜」
「じゃあ…一ヶ月後にプロポーズするんだね。頑張って…」
「サンキュー」
付き合ってくれたお礼にと、イタリアンをご馳走になった。
お洒落なお店。
まるでデートみたい。
「…キミが結婚したら、二人で遊びに行くのとか…やめようか」
「何を今更」
「彼女は嫌だと思うよ。浮気だって勘違いされる」
「んー…そうかもな。どうでもいいけど」
「どうでもよくなんかないよ!彼女は僕の性格と似てるんだろう?僕なら絶対嫌だ!僕がいるくせに…他の女なんかと遊んでるなんて許せない」
「そ、そっか。分かった…肝に命じとく」
「……」
僕と進藤は親友だ。
でも、もうすぐ終わりがやってくるのかも…―――
NEXT