●BEFORE&AFTER 3●
『今夜も行くから』
と進藤からメールが来た。
『分かった』
と返した後で、重大なことを思い出す。
……そういえば今夜一人なんだ……
父は今日から韓国。
母も学生時代の友人と温泉に行ってしまって、帰ってくるのは明日。
どうしよう…と急に不安になりながらも、別に碁を打つだけじゃないか…と気持ちを落ち着かせる。
そうだ。
碁を打つだけ。
進藤だって、その為だけにうちに来る。
両親がいようがいまいが関係ない。
そう思うのに、どうしてこんなに緊張するんだろう……
ピンポーン
夜7時――進藤が来た。
「いらっしゃい」
と普通に普通に招いてみる。
「あれ?明子さんは?」
ドキ…
鋭い進藤は来て5秒で気付く。
そうだね、お客さんを迎えるのはいつだって母だった。
「ちょっと…出かけてるんだ」
「ふーん…先生も?」
「あ…ああ」
「ふーん…」
そんなことどうでもいいから早く打とう!という僕の気持ちとは裏腹に、進藤は玄関から動こかない。
「…進藤?」
「…やっぱ今日帰るわ」
「え?どうして…」
「だって他に誰もいないんだろ?時間が時間だし…」
「……?」
「また明日打とうぜ」
「あ…明日は例のパーティーなんだ。何時に帰れるか分からないから…無理かもしれない」
「…ふーん」
進藤が僕の目をじっと見つめてきた。
冷たい、でも苦しそうな目付きに、僕もただ見つめ返すしか出来ない。
「…進藤?」
「…やっぱ打ってこうかな」
「は?」
「先生達、帰ってくるの何時ぐらい?」
「あ……父はしばらく帰らないんだ。母は明日の夕方かな」
「明日??」
「…うん」
少し考えるそぶりをみせてきた。
…もしかしたら余計なことまで教えてしまったのかも。
やっぱりまずいかな。
両親の留守中に男の人を上がらせるの……
たかが進藤だけど。
されど進藤。
気心が知れてる分、警戒心が薄れてしまいそう……
「今日泊まってもいい?」
「はい?」
「いいよな?オマエ一人じゃ危ないし」
「え……ちょっと待って。そんな急に…、それって…」
突然のことに思わず変な展開を想像してしまい、焦る僕を見て進藤がプッと吹き出した。
「なに一人勝手に妄想してんだよ」
「だ、だって…」
「時間気にせず打ちたいだけだから、変な心配するなって」
「…うん」
「んじゃ、おじゃましまーす」
今夜進藤と二人きり。
朝まで二人。
大丈夫…だよね?
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