●BEFORE&AFTER 1●








「ね、塔矢。私達もそろそろ婚活しなくちゃいけない歳だと思わない?」


「………は?」




棋院近くのお洒落なカフェ。

僕は今、珍しい人に呼び出されてここにいる。

奈瀬さん…と言ったかな?

確か元院生で、女流枠でプロになった人だ。

イベントでたまに相部屋になるから、会えば挨拶はするかな…という程度の人。

そんな彼女が話があるからと僕をここに呼び出した。

で、いきなりこんな話。

婚活って……



「塔矢って今22でしょ?私もまだ24だけど、こう仕事しかしてない毎日だとあっという間に婚期が過ぎちゃいそうな気がするのよね」

「はあ…」

「やっぱり一番の問題は出会いがないことよね」

「出会いは…たくさんあると思いますが。囲碁界は男性社会ですし…」

「やーよ、棋士なんて。棋士の私をを支えてくれる心の広ーい優しくてカッコイイ人と結婚したいもん」

「はあ…」

「塔矢だって嫌でしょ?しかも自分より格下なんて論外って感じしない?」

「それは…」

「ていうか私らの同年代で塔矢より格上っていなくない?唯一張り合えるのが進藤ぐらい?」

「………」

「あ、分かったー。塔矢って進藤のこと好きなんだ?」

「違いますっ!!」


なに急に大声出してるんだと思うほどの大声で思わず否定してしまった。

奈瀬さんがニマッと笑う。


「そ。じゃあ決まりね」

「…え?」

「塔矢、一緒にお見合いパーティー行こ♪」

「は…?」

「友達のお姉さんがよく 行ってるパーティー紹介してもらったんだ。でも一人じゃ寂しいから一緒に行こ」

「え…」

「はい、決まり。じゃあ今度の日曜の10時に、新宿のKホテルのロビーで待ち合わせね!」



押しの強すぎる彼女の誘いを断れるはずもなく、僕は言われるがままにお見合いパーティーとやらに参加することになってしまった。





どうしようか悩んだが、その晩そのことを進藤にも話してみる。



「マジ?」

と苦笑いされた。

「なに考えてんだ奈瀬のやつ。アラフォーの男しかどうせいないって」

「あ、でも年齢制限あるみたい。僕が行くのは20歳代限定だとか…」

「じゃあ大人数バージョンの合コンだな。遊び半分の奴しかいない気がする」

「そうなのかな…?男の人は会費が高いって聞いたから、冷やかしで来る人は少なそうだけど…」

「ふーん…」

「…進藤も来る?」

「冗談。オレ好きな奴いるし」

「…そう。そうだよね…」


僕らの年代だとそれが普通だよね。

誰なんだろう…と思いながらも、両想いでないといいな…なんて根の悪い僕は思う。

でも、それまで意識してなくても、進藤に告白されたらどんな女の子でも付き合っちゃうと思う。

格好いいし。

可愛いし。

明るいし。

オシャレだし。

口は悪いけど優しいし。

碁も強い=年収いいし。

それに引き換え僕なんて……




「…オレ、そろそろ帰るな」

「あ……うん」

「じゃあまた明日。お休み」

「うん…お休み」


父にも母にもお邪魔しましたーと元気よく言って、進藤は帰って行った。


その後で母が

「進藤さん最近よく来るわねぇ。アキラさんのことが好きなのかしら」

なんて冷やかすから、僕の顔はボッと赤くなった。


「し、進藤にはちゃんと好きな人がいるんですから、変なこと言わないで下さいっ」

「あら、誰?」

「そこまでは…」

「じゃあアキラさんかもしれないじゃない。こんなに毎晩熱心に通って下さるんですもの。昔の人みたいで何だか素敵ね」


昔…って、大昔すぎだろう。

平安時代とかそのあたり。



「アキラさんたら、どうしてわざわざお見合いパーティーなんかに行くのかしら。身近にあんなにいい人がいるのに」

「………」

「でも他の業種の人とも話すいい機会かもしれないわね。楽しんでらっしゃい」

「はあ…」




……行きたくない……














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