●SAVING TABOO 〜番外編A〜 ●
大好きだった洋人君が一瞬にして嫌いになった。
優しくてカッコイイ私のたった一人のパパを、私から奪ったあの日から――
あれは確か私が幼稚園の頃。
ママがある日突然私に言った。
「ママね…パパと離婚することにしたから」
「りこんってなに?」
「別々に暮らすことよ。もうパパとは一緒に住めないの」
「え…」
なんで?
なんでパパと離れなきゃならないの?
離婚なんて…そんなの親の都合じゃない。
絶対に嫌。
「イヤーーーっ!!!」
当時恥ずかしいぐらい大泣きした私。
パパとの最後の晩……ずっとパパの胸に抱き着いてた。
「パパ…パパぁ…どこにもいかないで…」
「ごめんな…。離れ離れにはなるけど、ずっとかおるのこと愛してるからな…」
優しくてカッコイイかおるのパパ。
大好きだった。
だから、離れてからもこっそり前の家を覗きに行った。
堂々とは会えない。
だって……ママに悪い。
ママも大好きだから――
だからこっそり……
え……?
私がそこで目にしたのは信じられない光景。
パパと…洋人君が一緒にキャッチボールしてる…
ママとの離婚の後、パパが洋人君のママと再婚したと私が知るのはもう少し後。
当時の私はただ…ショックだった。
自分のパパが死んだから、かおるのパパを取ったの?
そんなの…卑怯だよ。
絶対に許さない。
洋人君なんて大嫌い―――
あれから数年後――私は家から一番近くの附属中学へ進学した。
まさかその中学で彼と再会するとは思いもしないで―――
「かおるかおる〜!部活見学一緒に行こ〜!」
「うん!遥はどこにするか決めた?」
「まだ。運動苦手だから文化部ってことは確実だけど」
「あはは。私も〜」
この中学は必ずどこかの部活に入部しなくちゃならなくて、新入生は今日から二週間が仮入部期間。
皆色んな部活を見て回って、実際に体験して、一つに決めるみたい。
「かおるは目星付けてる部あるの?」
「んー…実はね…」
『囲碁部』
小学校の時からの親友・遥もこれにはビックリ。
思いっきり目を丸くしてきた。
「囲碁ぉ?囲碁って……あの?将棋囲碁の囲碁?」
「うん…ずっと前から興味があって…」
「マジ?」
だって………パパの仕事だもん。
パパとはもう何年も会ってないけど、囲碁番組とかたまにニュースとか新聞に出てるから映像はよく見る。
つい先月も棋聖の七番勝負がどうとかで、ニュースに出てた。
だからこの中学に囲碁部があるって知った時からずっと気になってた。
興味がある。
パパがどんなことを仕事にしてるのか――
「囲碁かぁ…。あんまり興味ないけど、かおるが行きたいなら一度覗いてみるか」
「ありがと、遥」
廊下の掲示板にずらっと並んでる募集ポスター。
囲碁部は……別館の二階・会議室Cが部室らしい。
さっそく遥と別館に向かう――
「君たち新入生?どうぞー」
部室の前に来ると、部長らしい三年生が中へ案内してくれた。
広さの割には部員が少ないからか、結構ガランとしてる。
9・10……二・三年生は10人ぐらいかな?
それに新入生が3人…
「打ったことはあるの?」
「いえ、初めてです」
「じゃあ大まかなルールだけ教えるから、今日は小さい九路盤で打ってみようか」
「はい」
部長の言われるままに座って、早速囲碁を体験してみる。
ふーん…ルールは結構簡単なんだ。
交互に石を置いて、最終的に陣地が広い方が勝ち。
でも石が増えてくるとごちゃごちゃになって意味が分からない。
私も遥も頭を捻り出したその時――
「――聞いた?今年の新入生にさ、進藤本因坊の息子がいるらしいぜ?」
「うっそ、マジ?勧誘しようぜ」
「院生じゃないの?」
「それが違うらしいんだよ。棋力もプロ並で院生もぬるいとかいう噂」
「んじゃ入ってくれたら無敵じゃん。さすが進藤本因坊と搭矢名人の子供〜」
「打倒・海王出来るかもな」
三年生のこの会話を後ろで聞いた私は持っていた碁石を落としてしまった。
進藤プロの息子…?
それって…それって……洋人君のこと?
この学校にいるの………??
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