●ARRANGED MARRIAGE 2●






オレは進藤ヒカル、23歳。

高校を卒業してしばらくふらふらフリーターしてたけど、去年から親戚のコネで入った住宅メーカーで営業なんかしている。

我ながら素晴らしい営業スマイルで人あたりがいいからか、営業部内での成績は上の中。

同じ会社で事務をやってる女の子に告白されて、今では社内恋愛なんかもしちゃってる。

休日はもちろんその瑠璃ちゃんとデート…のはずだったんだけど………



<ヒカル、今週は駅前の碁会所に行きましょう>

「囲碁サロン…だっけ?いいぜ」


18歳の時にこの佐為に取り付かれたせいで、休みはいつも碁会所巡りだ―――








佐為はじいちゃん家の蔵に眠ってる碁盤に宿っていた幽霊だった。

大掃除の途中、その碁盤に触れると声がして、体に何か入ってきた気がして―――気がついたら病院のベッドの上だった。

声だけじゃなく、幽霊の体までも見えるようになったオレは、その時初めて取り付かれたんだと聡った。

まぁ取り付かれたと言ってもそんなに害があるわけじゃなく、佐為はとにかく碁が打ちたいとせがんでくるだけ。

だからオレはこいつの相手をしてやる為だけに碁を覚え、いつもオレと打つだけじゃ可哀相だから、貴重な休みを潰しデートも半分に我慢して、碁会所巡りに付き合ってやってるわけだ。



「来週末は絶対ダメだからな。瑠璃の誕生日だから」

<分かってますって>


そうこう言いながらたどり着いた駅前の碁会所・囲碁サロン。


「ここは初めて?」

「はい。なるべく強い人と打ちたいんですけど…」


受付のお姉さんにそうお願いすると、奥に一人で棋譜を並べていた女の人の元へ連れていかれた。


「アキラ君、お願い出来る?」

「あ…はい。どうぞ」


オレみたいな若い奴が碁会所に来るのは珍しい。

しかも女となるとかなり貴重。

その上強いとなるとプロかアマの上の方の奴かもしれない。

ま、何にしろこれでせっかくの休日をじーさん達の相手で潰されることはなくなったわけだ。


「棋力はどのくらいですか?」

「打ってみれば分かるよ。互い戦で」

「…そうですね。じゃあ握ります」


一瞬口元を緩めた彼女。

互い戦だなんて、本気で言ってるの?私のこと、知らないの?って顔された。

ああ、知らねー。

プロの世界とか興味ない。

誰がいるのかなんて知らない。

(さすがに塔矢名人クラスなら知ってるけどな)

でも、どんな奴にだって絶対負けない自信がある。


だって今からオマエの相手をするのは―――藤原佐為なんだからな―――























「僕のこと思い出しました?」

「うん…ビックリした〜。あの時の子が見合い相手だなんてさ、すっごい偶然」


簡単な紹介を終えた後、二人だけの時間を設けられ、庭園を一緒に散歩し出した。

あの囲碁サロンで打った碁バカで暗そうな子が、今目の前にいる美人だなんてまだ信じられない。

…いや、実際あの碁会所は照明が暗くて、あんまり顔なんか見えてなかったのかも。

それか化粧の力だ。


「実は僕も驚いてます。負けた後…ずっと進藤さんのことばかり考えてて。もう一度打ちたくて…。結婚結婚煩い母につい言っちゃったんです。進藤ヒカルとならお見合いしてもいいよ…って。まさか本当に進藤さんを探しだしてくるなんて思いませんでしたけど」

「はは。すごい人だな、キミのお母さんって」


優しく微笑んでくれた後―――彼女の目つきが変わった。

勝負者の目。

今オレの前にいるのは見合い相手じゃない。

塔矢アキラ八段だ―――


「…で、いつ僕と打ってくれます?」

「デートのお誘いなら喜んで。週末か、平日も夜ならいつでも」

「じゃあ…14日でもいいですか?僕の誕生日なんです」

「あ、同い年だったんだ?」

「いいですか?」

「いいよ」


<ヒカル、またこの方と打てるのですか?>

ああ。

オマエが打て、佐為―――














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