●ANNIVERSARY 2●


「…帰って来ねぇ…」


夕ご飯までには帰るって言ったのに!

もう20時過ぎてんのに!

何で帰って来ねぇんだよ!!

「くそ…っ」


去年の光景が今にも蘇ってきそうで…すげぇ気持ち悪い…。

また別居とかになったらどうしよう…。

嫌だ!

もう絶対に嫌だ!!


でも……理由が分かんねぇ…。

何がいけなかったんだ…?

去年のは…妊娠してるアイツに、知らなかったとはいえ無理やりオレが強姦しちまったから…だけど。

でも台所を覗くと包丁が思いっきり突き刺さってるから……ご立腹なのは明確…。


落ち着け。

いつからだ?

いつから機嫌が悪くなった?

朝は……普通だったよな?

普通に起きて、メシ食って、一局打って、佐為と遊んで……んでもうすぐ昼食ってところで出かけてしまった。


…やっぱアレか…?

オレがあかりにメールしたから?

いや、アイツはそれくらいで機嫌を損ねるほど心の狭い女じゃない…。

むしろ大学への指導碁だって立派な棋士の仕事の一つだ、とか言いそうだし…。


えー…じゃあ何が悪かったんだ??

つか、今どこにいんだ?アイツ。


プルルルル
プルルルル
プルルルル
……

『こちらは留守番電話サービスです。ピーッという発信音の…』

「くそ…っ。オレの電話は総無視かよ!」

携帯には絶対出てくれないような気がしたので、早々に諦めて塔矢家に掛けることにした。


プルルルル
プルルルル

『はい、塔矢です』

「あ、明子さん!ヒカルです!」

『あら、ヒカルさん?こんばんは』

「こんばんは。あの、アキラ来てますか?」

『アキラさん?いいえ、来てないけど…』



え…?



「本当に…?」

『ええ。どうかなさったの?またアキラさん出て行っちゃった…とか?』

「お恥ずかしながら…」

電話の向こうで明子さんがふふっと笑った。


『アキラさんも頑固ですからねぇ…。今回は何が原因なの?』

「いえ、あの…それが…さっぱり分からなくて…」

『でもいくらアキラさんでも、理由なしに怒るはずはないと思うわよ?』

「オレもそう思うんですけど…ちっとも分からなくて…」

『携帯にはかけてみた?』

「はい…。でも普通に取ってくれませんでした…」

『あらあら』


せめて居場所さえ分かれば…直接会って話しあえるのに…―。

アイツのことだから手合いには出るだろうけど…来週までとてもじゃねぇけど待ってられねぇし…。


『アキラさんのことだから、知人に頼ってる可能性は低いわね。今頃ホテルかしら?』

「ホテル…ですか」


って言われても東京だけでも何千軒あるんだよ…。

一つ一つ探すのは絶対無理だし…。


『アキラさんのお気に入りのホテルとか…ヒカルさんならご存じなんじゃない?』

「いえ、アイツあんまりホテルは好きじゃないから…」

『じゃあヒカルさんとの思い出のホテルとかは?結婚式をあげた新宿のホテルに電話してみたらどうかしら。去年の結婚記念日はどちらに泊まったの?』

「いえ、去年は既に実家に帰っちゃってたんで…」

結婚記念日は一人家で虚しく…。


……ん?


結婚記念日…?


20日…?


20日…


20…


「ああっ!!!」

『ど、どうかなさったの?何か分かった?』

「あ、はい。分かった気がします。お騒がせしました!失礼します!」

『いいえ〜』

ピッ


そうだよ!

20日はオレらの結婚記念日じゃん!

あー…バカだオレ…。

何で忘れてたんだよ…。

しかもあかりのとこに指導碁に行くとかアキラに言っちゃったし…。

アイツが怒るの無理ねぇって!

さっさと謝って帰ってきてもらおう。


「佐為〜、ママ迎えに行こうな」

「ママどこ…?」

「たぶんパパとママが結婚式をあげたホテルだよ」














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