●ANNIVERSARY 3●


「申し訳ありませんが…宿泊名簿に進藤アキラという方のお名前は見当たりません」

「じゃあ塔矢アキラ名義で泊まってませんか?」

「少々お待ち下さい」

フロントのスタッフが素早く名前を打ち込んでる。

でも結局はシロ。

新宿のこのホテルには泊まってなかった。


「ママぁ…」

佐為が今にも泣きそうな顔してる。

オレも泣きたい…。


「他に思い出のホテルってあったかな…」


北斗杯の時に泊まったホテル…はたぶん違う。

仕事関係で泊まったホテルではないと思う。

おそらくオレとアキラがデートで泊まった所だ。

でも佐為が出来るまでは毎日のように泊まってたから……手当たり次第じゃキリがない。

結婚後はプライベートでどこか泊まったかな?

思い出せ!オレ!

最初から思い出せ!


初めてのデートん時は確か……オレの家だ。

そんで2回目のデートで初めてホテルに行って……初エッチをした。

あー…懐かしいな。

あの時のアキラも可愛かったよな〜。

何もかもが初めてだったからあんまり余裕がなかったけど。

一人切羽詰まってたし…。

いや、そんな思い出話はどうでもいいから!

それよりホテルの名前だ。

場所だ。

えーと…確かあそこは…―


考えながら駐車場に戻り、そのホテルまで車を走らせた。






「ご宿泊でしょうか?」

「いえ、人を探してるんですが…こちらに進藤アキラっていう女性が泊まりにきませんでしたか?赤ちゃん連れてたと思うんですが…」

「進藤…様の名は見当たりませんね。塔矢様名義で泊まられてます」

「本当ですか?!何号室…」

「お取り次ぎしますので少々お待ち下さい」

インチャージの責任者らしき人が部屋に電話してくれてる。


「塔矢さまが承諾されましたので、ご案内させていただきます」

「…すみません」


あー…良かったー。

何とか今日中に迎えにこれたぜ。


ベルに案内されて部屋に行くと、少し目のつり上がったアキラが出て来た。

ドアを閉めた途端に両手を合わせて即座に謝る。


「アキラごめんっ!結婚記念日のことすっかり忘れてた!」

「…キミにとっては忘れる程どうでもいい日なんだね」

「んなわけねーじゃん!オマエの誕生日と同じぐらい大事な日だし!ただ…ちょっとうっかりしてて……」

「……はぁ」

溜め息を吐いて奥の彩が眠ってる場所に戻っていった。


「おいおい…すげぇ部屋だな。スイートか?一体何万したんだよ…」

「知らない。勝手にホテル側がアップグレードしただけだ」

「ふぅん…さすが『塔矢アキラ』だな」


「あやちゃん!」

彩を見つけた佐為が嬉しそうに妹の側に走っていった。


もう片方のベッドにアキラが腰掛けたので、オレの方もすぐ横に座って…腰に手を回してみる―。

「ごめんな…。指導碁は別の日にしてもらうからさ…」

「僕の方は何ヶ月も前から手合課に頼んで空けてもらってたんだ…」

「マジ?本当にごめん…」

「……」

「許してくれる…?」

アキラがオレの方に顔をゆっくり向けて来た。


「19日の晩からこのホテルに泊まりたい…」

「いいよ。一番いい部屋予約しとく」

「嫌だ。普通のダブルの部屋がいい…。初めて泊まった部屋と同じ…」

「アキラ…」

腰に回してた手を肩に移動させて引き寄せ、直ぐさま頬にキスをした―。


「…んじゃあの時と同じコースでいい?」

「うん…。でも…今度はちゃんとムードも考えてね?」

「分かってるって…―」



9月20日。

二度目の結婚記念日。

懐かしい思い出のこのホテルで、あの部屋で、オレらは再び一夜を共にする約束をした。


これからもずっと一緒にいられますように…という願いを込めて――
















―END―

















以上、結婚記念日を忘れてたヒカルと、それに怒って出て行ったアキラの話でした〜。
FEMALEシリーズでは、9月20日はヒカルの誕生日であると同時に、二人の結婚記念日でもあるんですよねー。
2倍おめでたいです。
内容はあんまりめでたい内容ではないですが…(痛)
アキラが包丁を突き刺した時点で、「あ、この話もうダメだ…暗くなる…」って思いました(笑)
何とか1日で仲直りしてくれたみたいで良かったです…(^^;)

話は変わりますが、ホテルのアップグレードって嬉しいですよねー(笑)
平日なら上げてくれる確率がグンとアップするんですよ。
私自身も何回かありました。コーナーにしてくれたりワンランク・ツーランク上げてくれたり、シングルをツインにしてくれたり色々…。
ヒカアキみたいなVIPだとたぶん休前日でも上げてくれると思います。
そのホテルにとっての要人の中に、普通に名前が入ってると思う。
飛び込みでもホテル側は宿泊ヒストリーを見ればどんな人なのか一目瞭然ですからねー。
どれだけ即座に対応出来るかがホテルの質の違いだと思います。

さて、結婚記念日。
佐為達をまたしても明子ママに預けて、二人でラブラブするんですかね!(笑)
そっちを書いた方が良かったのかな…?
いや、それだとただのエロになる確率100%…。ボツです(=_=;)