●AKIRA 2●
和谷に誘われて、モデルとの合コンに参加した。
そこで出会ったのが秋羅だった――
「始めまして、九重秋羅です」
「え?あきら…?」
「うん」
塔矢と同じ名前だったから興味を持った。
実際似てるところもあった。
背が高いところ。
美人なところ。
プライドが高いところ。
なんとなく女王様風のオーラがあるところ。
実際にお嬢様なところ…とか。
違うのは、やたら化粧が上手くて…やたらセンスがいいところ。
あと、友達が多い。
あと、料理が下手。
あと、セックスが上手い。
(塔矢とはしたことないけど、たぶんアイツ処女だし。上手い下手以前の問題)
秋羅と付き合い出して、あらゆる場面で塔矢と比べてしまってるオレがいた。
同じ名前だから勝手に頭が比べてしまう……だけじゃない気がする。
たまに同化しちゃうっていうか……もう塔矢に置き換えてしまってる時もあった。
エッチの時なんて特にそう。
部屋は暗いし、名前は『あきら』だし。
まるで塔矢としてる気分だった。
それはすぐに秋羅にもバレた。
「ヒカルって…誰のこと考えて私を抱いてるの?」
「…は?秋羅に決まってんじゃん」
「本当に私?九重秋羅?」
「あ…当たり前だろっ」
と言いながらも内心焦っていた。
「私ね…ヒカルの周りのこと調べさせたの。いるわよね?同じアキラっていう女の子」
「…いたっけ?」
秋羅がクスって笑ってきた。
「嘘が下手ね。毎日会ってるくせに忘れるわけ?」
「………」
確かに、塔矢とは毎日のように会ってる。
でも……打つためだ。
塔矢はライバルだから……
「その子のこと…好きなんでしょ?」
「は??」
「私に興味持ったのも…その子と同じ名前だったから。違う?」
「……ごめん」
「正直でよろしい」
「でもオレ、別に塔矢のことなんか……」
「塔矢さんってどんな人?歳は?」
「え…23…だけど」
「ふーん、私より2コも下かぁ。いいなぁ…若くて」
「……」
「何してる人?」
「オレと同じ…囲碁のプロ棋士」
「ヒカルより強い?」
「五分五分かな。名人リーグでは負けたけど、棋聖リーグは勝ったし…」
たぶん、秋羅は既に塔矢のことを調べつくしてたんだと思う。
調べた上で聞いてきた。
オレの口から言わせたかったんだ。
オレの本当の気持ちを―――
「塔矢さんと寝たことあるの?」
「あ…、あるわけねぇ…し」
「だから私を代わりにしたの?」
「……」
「塔矢さんに告白したことは?」
「…ないよ。怖くて出来ない…」
「フラれるのが怖いの?本命の証拠ね」
「……」
「塔矢さんに彼氏は?」
「いないと思う…。アイツ碁ばっかりだし」
「自分だって囲碁ばかりじゃない。何度私の誘いを断った?囲碁の勉強があるからって、塔矢さんと勉強するからって、塔矢さんに会いたいからって。口に出してなくても分かるわよ」
「……ごめん」
「ヒカルに合ってると思うわよ、もう一人のアキラさんの方が。さっさと行けば?」
「……ありがとう」
最後の方は目も合わせてくれなかったけど、オレは深々と礼をして…彼女の部屋を飛び出した。
秋羅はオレの気持ちを引き出してくれた。
アキラは…オレの気持ちを受け止めてくれるかな―――
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