●AKIRA 1●






僕は最近イライラしていた。





「でさ、昨日秋羅と服買いに行ったんだけどさ、秋羅ってすげーセンスいいんだぜ。さすがモデルっていうかお嬢様っていうか」

「………」

「今度秋羅の家に遊びに行くんだ。秋羅の実家は白金らしいんだけど、今は六本木で一人暮らししてるんだって。すげーよな〜オレヒルズ族って初めて見た」

「………」

「でな、秋羅って――」

「進藤。アキラアキラって連呼するの、やめてもらえる?不愉快だ」


いい加減我慢も限界になって注意すると、進藤は一瞬首を傾げ、次に僕がなぜ不愉快なのか分かったらしく笑ってきた。


「はは…オレが言ってる秋羅は九重秋羅のことで、オマエじゃねーよ塔矢」

「でも僕も同じ『あきら』だ。キミに名前を連呼されるのはすっっっごく不愉快だ。二度と僕の前で彼女の話をしないでくれ!」


途中まで打っていた碁石を乱暴に片付け、フン!と僕は彼より先に囲碁サロンを後にした。



ああ…イライラする。

進藤のくせに、僕の名前を連呼するなんて。

進藤のくせに、ヒルズ族が彼女だなんて。

進藤のくせに………



ショーウインドーに写った自分自身の姿を見てみた。

「……地味な女」

が写っていた。

服もダサい。

鞄もダサい。

靴もダサい。

髪型もダサい。

おまけにスッピン……


同じ『あきら』でも、進藤の彼女の秋羅さんとは大違いだと思った。

こんな女…進藤が惹かれるわけがない。

こんな女…好きになって貰えるわけがない。

何だか無性に惨めになって…悔し涙が溢れてきた。



進藤が好きだ。

ずっとずっと前から好きだった。

でも…取られちゃった。

僕より遥かに綺麗で美人でセンスもいいお嬢様に。

しかもよりによって同じ名前だなんて最悪……












「アキラ君、進藤と付き合い始めたのか?」


そしてこういう周りの誤解も僕を更にイラつかせていた。

はぁ…と溜め息をついて、勘違いしている緒方さんに説明する。


「違います…。進藤が付き合ってるのは九重秋羅という人で…僕とは関係ありません」

「ああ…『あきら』違いか。複雑だろう?アキラ君」

「…別に」

と強がってみた。


「にしても九重秋羅と付き合ってるのか、進藤は。生意気だな」

「緒方さんご存知なんですか?」

「モデルの中ではかなり有名な女だからな。アキラ君もファッション誌の一つでも見た方がいいぞ」

「……」


見ると余計に惨めになりそうで嫌だった。

今更見よう見真似で真似ししたところで…もともとセンスの悪い僕が叶うわけないし…。



でも――足が勝手に本屋に向かった。


今まで縁遠かったコーナー。


…本当だ。

雑誌の表紙にも出るぐらいの人だったんだ。

顔なんて見たことなかったけど

『秋羅流春コーディネート』

とか、大きく見出しが書かれていたからすぐに分かった。


この人が進藤の彼女なんだ……

この人が………ライバル。



「………」




この日、僕は生まれて初めてファッション誌を買った―――













NEXT