●AGAIN +9●
―――どうしてすぐに気付いてやれなかったんだろう―――
両親がいたとはいえ、一人で産むのはきっと辛かっただろう。
傍に居てやれなかった悔しさ。
そして一緒に育てられない寂しさ。
それがオレを一つの答えへと導きだした―――
「責任…今から取ってもいいか?」
あと二ヶ月。
あと二ヶ月で結婚出来る歳になる。
結婚してオマエの弟……いや、サトルを一緒に育てたい。
「塔矢、これ…受け取ってくれる?」
今日の日の為に用意した指輪。
机の上にそっと差し出すと―――塔矢の目から一筋の涙が零れ落ちた。
「…いいの?」
「当たり前だろ」
「きっと大変だよ?今のまま…両親の子供のまま育てた方が何十倍も楽だと思う」
「嫌だよ。オレだって子育てに参加したいし、何よりいつか子供に『パパ』って呼んでほしいもん」
「進藤…」
きっとオレらの前には大きな壁がいくつも立ちはだかると思う。
乗り越えなくちゃいけない大きな壁。
一つ一つ塔矢と一緒にクリアしていきたい。
「塔矢、オレと結婚して下さい」
「…うん……うん――」
涙が止まらなくて下を向いてしまった彼女。
しばらくして顔を上げた塔矢の顔は―――笑顔だった。
「結婚には反対しない。だがアキラがこの家を出て行くことは許さん」
訪れた塔矢家で待ち受けていた一番の大きな壁―――先生。
何とか『同居』という条件付きで許してくれた。
「本当はね、進藤さんには婿養子に来てほしかったんですけど、進藤さんも一人息子ということだから諦めるわ」
と明子さんに残念そうに言われてしまった。
殴られて、追い出される覚悟で行った塔矢家は意外に穏便で驚いた。
でも代わりに―――オレの実家でそうなる。
父親に拳で殴られたオレは、一瞬何が起こったのか分からなかった。
「あんたって子は……信じられない」
母親にも泣かれた。
「出ていけ」
「うん……ごめん、父さん母さん」
「進藤…」
一緒に来ていた塔矢も真っ青な修羅場。
そりゃそうだ。
18にもならない息子が結婚したいというだけでも問題なのに、相手の女性…しかも同い年の女の子が既に子供を産んでるとなると――
「ご両親とこのまま疎遠になったりしない?」
「はは…平気だって。また落ち着いたら顔出すし」
「絶対だからな?」
「ああ」
次の日からさっそく引越準備に取り掛かる。
塔矢ん家に住むんだから、冷蔵庫とか洗濯機とか余計な家具家電は全部処分。
必要最低限に荷物をまとめた。
「進藤さんの部屋はアキラさんの隣ね。今は一応襖で仕切られてるけど、取り除いてしまっても結構よ」
「ありがとうございます」
「進藤さんが来てくれて嬉しいわ。料理の作り甲斐が……ああ、そうだわ。この際台所をリフォームしようかしら。三世代用に増築もいいわねぇ」
お任せします、とオレと塔矢と先生は同時に思った。
「サトル〜パパだよ〜」
塔矢の部屋に置いてあるベビーベッドを覗き込んで挨拶した。
「ごめんなー。この前はお兄ちゃんって言ったけど、やっぱりパパだったよ」
プッ…と隣で塔矢が吹き出した。
「これからはずっと一緒にいるからな。早くパパの顔覚えてくれよな〜」
指でぷにぷにと頬をつっついた。
「進藤…」
「塔矢、オマエともこれからずっと一緒にいられるな」
「うん…」
「よろしくな」
「うん…よろしく」
9月20日―――オレと塔矢はめでたく結婚した
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