●AGAIN +6●
「聞いた?進藤四段と松澤女流本因坊のウワサ」
―――進藤?
復帰願いの届けを出しに棋院の事務課に行った時だった。
噂好きの事務のお姉様方が進藤の話をしていたので、思わず耳がダンボになってしまった。
「本因坊戦の第一局、沖縄であったじゃない?まるで恋人同士みたいに仲が良かったんですって」
「というか、本当に付き合ってたり?」
「かもねー。記録係の子が、朝方進藤さんが松澤さんの部屋から出てきたところ見たって言ってたし」
「やだー」
…………嘘だ。
進藤と付き合ってるのは僕だ。
進藤がそんなこと……あるはずない。
彼が裏切るはずがない。
「また活躍楽しみにしていますよ」
「…ありがとうございます」
事務のおじさんから書類を受け取ると、僕は一目散に家へ帰った。
実は今日これから進藤が家に来ることになっている。
本人に直接聞こう。
噂は所詮噂だ。
あてに出来ない。
「こんにちはー」
「いらっしゃい」
特に前と変わった様子もない彼が、昼過ぎにやってきた。
「これ沖縄土産な。5月なのに向こうは暑かったぜー」
「ありがとう。一局打つ?」
「んー、それよりメシ食いたいな。昼ご飯まだなんだよー」
「じゃあ準備するよ」
彼を居間に案内した後、隣の台所で簡単な昼食を作り始めた。
進藤は何やらキョロキョロしている。
「オマエの弟は〜?」
「僕の部屋で寝てる」
「見てきていい?」
「…いいよ」
「サンキュ」
ご機嫌に僕の部屋に向かっていった。
もしかしたら…今日彼が弟をあやしてるところとか見えるかもしれない。
本当のパパだよって進藤が帰った後で教えてあげたい。
「塔矢塔矢〜見て見て〜」
「え?」
振り返ると―――サトルを抱っこした進藤がいた。
「起きてたから連れてきたぜ」
「そ…う」
「マジ可愛いな〜コイツ」
「皆に言われるよ」
「お兄ちゃんですよ〜なんちゃって」
「お兄…ちゃん?」
「だってオマエの弟だろ?オレとオマエが結婚したら、義理の兄になるじゃん」
「………そうだね」
兄……ね。
「いいなー弟。オレもほしいぜ。うちの親もう40超えてるから無理だと思うけど」
進藤がサトルを座布団の上に寝かせ、自分も畳でゴロゴロしながらあやしだした。
「………なぁ塔矢」
「なに?」
「今日夜まで先生達帰らないんだろ?」
「ああ。だからサトルから離れられないからキミに来てもらったんじゃないか」
「じゃあさ、この前の続き……出来ない?」
「え……」
それはつまり初デートの続き?
そうか。
僕、この前は『用事を思い出した』と言って帰ったんだった。
今日はなんて言って断ろう……
「それが………生理中なんだ」
「オレは気にしないけど?」
「僕は気にするんだ。布団が血で汚れるのも嫌だし、そもそも生理中はそんな気分にはなれない」
「………そっか」
残念そうに納得すると、再びサトルで遊び出した。
「……ごめん」
「いいよ。仕方ないし…、また終わったらしようぜ」
「………」
あと半年も出来ないって知ったら、彼はどう思うだろう。
もしかして……浮気しちゃう?
例えば、松澤さんと―――
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