●AGAIN +2●
「久しぶりの日本ねー。やっぱり空気が美味しいわ」
飛行機を降りた後、父と僕に挟まれた母がご機嫌にそう言った。
母の手には一台のベビーカー。
僕の『弟』、サトルがすやすやと眠っていた――
「タクシーで帰るのかね?」
「緒方さんが迎えに来て下さるとか電話で言ってましたわ。あ、ほら――」
到着ロビーに出ると、馴染み深い面子が並んでいた。
「お帰りなさい、先生。お疲れでしょう」
と緒方さん。
「改めておめでとうございます。いや〜先生もまだまだお若いですね」
と芦原さん。
「これ、私たちからのお祝いのチャイルドシートです。さっそく使って下さいね」
と市河さん。
そして―――
「お帰り、塔矢」
一年前と全く変わってない笑顔。
身長…少し高くなった?
声…少し低くなった?
彼に再び会えた喜びで思わず涙が出そうになった。
「進藤……」
僕ね…僕ね…僕…―――
決して口に出来ない『真実』。
固く…口を閉ざした。
「わ!可愛いっ!」
「………?」
突然聞き慣れない声がして視線を横に向けると―――知らない女の子がいた。
……誰?
「進藤さん!ほら、見てください!すっごく可愛いっ」
「あら、ありがとう。どちら様だったかしら?」
母が代わりに聞いてくれた。
「あ…すみませんでした。松澤菜穂子と言います」
「現女流本因坊で囲碁界の新プリンセスなんですよ〜」
と芦原さんが付け加える。
「で、進藤君の彼女だっけ?」
―――え?―――
「違いますよっっ!!」
進藤が大声で否定した。
でも松澤さんは満更でもないらしく、顔が真っ赤だ。
「違うからな!塔矢!」
「…ふぅん」
目が怒ってる僕を見て、慌てて手首を掴んでどこかに引っ張っていく――
「オレが好きなのはオマエだからな!覚えてるよな?帰ってきたら付き合おうっていう約束」
「…うん」
「じゃ、今から付き合おう?」
「……うん」
承諾はしたものの、なんだか気持ちが晴れない。
一つでも疑うと、全てを疑ってしまう。
本当に進藤はこの一年間…誰とも付き合ってないんだろうか。
付き合ってはなくても……遊んでたり。
さっきの子もそうだ。
どうしてあんな子がこの場に来てるんだ。
どうせ進藤が連れてきたんだろう?
何の為に?
「…塔矢、なに考えてる?」
「……別に」
「まさかオレを疑ってる?」
「………」
「オレがどんなにこの日を待ち侘びたか知らないで…」
「………」
「松澤さんのことが気に入らないのか?あの子はただ噂のオマエの弟が見たかっただけのミーハーだよ。一応言っておくけど、オレは連れてきてないからな」
「…本当に?」
「ああ。だってオレ、楽しみで待ちきれなくて朝から空港内ウロウロソワソワしてたんだもん。で、遠征帰りのあの子にバッタリ会って…………て、それってやっぱりオレが連れてきたことになるのか??」
「そう…だったんだ」
朝からウロウロ…ソワソワ?
その様子を想像すると何だか可愛くて、クスッ…と笑ってしまった。
「あーーやっと笑ってくれたー。よかったー」
「皆の所に戻ろうか」
「うん。あ…ちょっと待って」
進藤の顔が近付いてきて―――キスされる。
「――……ん…」
同時に抱きしめられる体。
感じる彼の温もり。
ああ……本当に帰ってきたんだな…と実感する。
「好きだよ…塔矢」
「うん……僕も」
「お帰り」
「ただいま…」
北斗杯から一年。
僕は全てを終えて再び日本に帰ってきた―――
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