●AGAIN 5●
北斗杯を一ヶ月後に控えた今週――オレは塔矢の方ばかり気にしていた。
早く合宿のこと言わねぇと…
早く謝らねぇと――
「進藤」
「わっ!ととと塔矢っ?!」
「そんなに驚かなくても…」
予想外にコイツの方から話しかけてきた。
動揺してる心臓を必死に抑える――
「社から電話があったよ。合宿のことどうなった?って…」
「げ…」
「キミに頼んだって言ってたけど?」
「あ、うん。言おうと思ってたんだけどさ………話しかけずらくて…」
「………」
「あの晩は……その……ごめん。どうかしてた…」
「……そうだね」
「ずっと後悔してた…反省した…何であんなことしちまったんだろうって…」
「うん…」
「本当にごめん!もう二度としない!」
「……」
ふふっと塔矢が笑ってくる。
「いいよ…。もう…終わったことだから」
「ごめん…」
「で?北斗杯は?」
「あ…うん。しよっか…オマエが嫌じゃなかったら…」
「僕の家には今母がいるんだけど、それでもいい?」
「もちろん」
「じゃあ、社には僕からそう言っておくね。詳しい日付は手合課と相談してからってことで」
「うん…」
前と同じような態度の塔矢に驚いた。
吹っ切れたのか…?
それとも…――
「進藤」
「え?」
「前みたいに…碁会所で検討しないか?」
「いいのか…?」
「もちろん」
何もかもがあの日以前の状態に戻っていく。
こんなにもすんなり。
あっさり。
いいのか?ってぐらいに。
「あら進藤君、久しぶりね」
相変わらずの市河さんの明るい声。
「またうぜぇ奴が来たぜ」
「まぁまぁ」
相変わらずの碁会所の常連客。
奥のいつもの席には塔矢が座ってて――オレを待ってる。
「進藤、打とう」
「ああ」
…ここから数メートル向こうに塔矢を犯した場所があるのに。
脳裏に甦ってくる叫び声。
泣き声。
もう忘れてるのか?
じゃあ…オレも忘れよう。
楽な方に逃げよう。
塔矢。
オレ達…ずっとライバルでいような?
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