●AGAIN 2●



お客が帰って静まりかえった碁会所。

僕と進藤はここで検討をしていたはずだった。


だけど気付いたらケンカになってて……そしていつの間にか僕は彼に強姦されていた――


進藤が帰った後もしばらくそのまま床に横たわり、ただ枯れるまで涙を流した。

血まみれになった下半身からは傷ついた痛みだけがジンジンと感じる。


…これが夢見てた彼とのセックス…?


悲惨すぎてもうどうしたらいいのか分からなくなる…。

でも悪いのは進藤だけじゃない。

今日の彼は機嫌が悪かったのに、察せず酷い言葉を連発した僕も悪い。

手を先に出したのも僕だ。

でも、性差別をされたのだけは許せなかった。


女のくせにって何だ?!

僕だって好きで女に生まれたんじゃない!

出来ることなら男に生まれたかった!


…それが僕の第1人称が『僕』な理由…


進藤が羨ましい…。

男の人が羨ましい…。


僕だってもし男に生まれてたら…――











準備室に置いてあるタオルで後始末をした後、タクシーで家に帰った。

両親が外国でよかった…。

こんな血まみれの服を見られたら、母なんて気絶するかもしれない。

父はまた倒れちゃうかも…。


「…進藤…―」


たぶんもうキミとは仕事以外で打つことも話すこともないんだろうね。

…キミは気付いてた…?

僕がキミのことを好きだったってこと…。

僕は密かに夢見てたんだよ?

キミと交際して…キスしたり…体を合わせたりすることを…―。


だけど現実はこれ。

全てをすっ飛ばされて…ただの捌け口だけにされた…。

一気に何もかもが崩れ落ちた感じだ…――














「おはよう、塔矢さん」

「おはようございます」



――翌日


再び手合いで棋院に行った僕は、進藤の姿を目にした。

僕の存在などないかのように、僕の前を他の棋士達と楽しそうに通り過ぎるキミ。

胸がズキリと痛む…。



「おはよ〜、アキラ」

「芦原さん…おはよう」

「元気ないな。どうかした?」

「いえ、別に…」

「悩み事があるならお兄さんに言えよ?恋の相談にだって乗っちゃうからな」

「ありがとう」


作り笑いで返して、すぐさま対局場へと向かった。

昨日までは対局が始まる前に、進藤と検討の約束をして臨んでいた。

それは彼に酷い碁だと言われないような内容にする為の、気がまえの儀式の存在も兼ねていた。

突然それがなくなったからって勝敗に影響するわけじゃないけど……やっぱり寂しい。

本当にもう二度とキミと話が出来ないんだろうか。

打つことも検討することも出来ないのだろうか。


…いや、大丈夫。

今月末には彼との直接対決がある。

それまでの我慢だ。



そう思ってたのに――









「お願いします」

「…お願いします」



「ありません」

「…ありがとうございました」



結局僕らが交わした言葉はこれだけ。

僕と一度も目を合わせないまま彼は席を立ってしまった。

僕と進藤の対局の時は気がついたらいつも周りにたくさんギャラリーが集まってて、終局後彼らを交えて検討するのが当たり前のようになってたのに……


「進藤君、検討もしないで帰っちゃったな…」

「…そうですね」

「碁会所ではするんだろ?」

「いえ…」

「…だよな。最近アキラと進藤君が碁会所で打ってるところ見ないもんな。またケンカでもしたのか?」

「……」


涙を滲ます僕に芦原さんが慌てて対局室から僕を連れ出してくれた。


「僕もう…どうしたら…。進藤は目も合わせてくれないし…胃は痛いし…生理は来ないし…」

「アキラ、大丈夫。俺が付いてるから…」

「芦原さん…」
















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