●ABNORMAL LOVER 1●


男が男を好きになるのはタブーだ。

だからオレは大好きな塔矢にそのことを伝えられない。

伝えたら今まで築いた関係が全て壊れてしまうだろう。


それが怖いから……ずっと一生告げずに、オレの胸の中に収めておくつもりだった。





――でも彼女がそれを変えてくれたんだ――







「…何描いてんの?」

「もう!邪魔しないで!〆切まで時間ないんだから!!」

「ご、ごめん」


いつものように彼女の部屋に遊びに行ったオレ。

そしていつものように邪魔だと追い返された――



「あーあ、クリスマス何しよっかなー。仕事でもするか…」

「彼女と過ごさないのか?」

塔矢と碁会所で打ってる時ボヤいてみると、不思議そうに眉を傾けて塔矢が聞いてきた。

「だって…あいつ忙しいんだもん」

「仕事?」

「仕事っつーか…趣味?いや、既に副業かな?何か休みに会いに行く度にマンガ描いてんだぜ」

「へぇ…漫画家なんだ?」

「そうなるのかなぁ…?」

「は?」

首を捻るオレを見て、またしても塔矢が不思議そうに声をあげた。


だって…普通の漫画家じゃねーんだもん。

つまりプロじゃない。

アマチュアなんだ。

とはいえ、プロ志望で漫画雑誌とかに投稿してるわけではない。

でもまるでプロ並に忙しくて、付き合い出した当初から〆切〆切言ってる。

何かのイベントがあるらしくて、春が終わったらすぐGW合わせの原稿だ!入稿したら大阪合わせだ!コピー本だ!オンリーイベントだ!夏のグッズの〆切だ!カラーだ!本文だ!夏だ!大阪だ!コピー本だ!グッコミだ!オンリーだ!スパークだ!冬のカレンダーの〆切だ!カラーだ!

………で、今、冬の本文を描いているしい…。

全く隠してねーし、一年近く付き合うと嫌でも分かる。



彼女は………『オタク』というやつだ。



あー…くそっ。

すげぇ騙された気分。

だって見た目すげぇ普通なんだぜ?

普通のその辺のOL。

化粧や服やブランドやエステやネイルや男にしか興味なさげの、まさしくギャル上がりの女。

確かにそれにも興味あるみたいだけどさ、それより好きなのが某少年誌に出てくる某キャラ。

きっとオレよりその二次元のキャラの方が好きなんだ…って思うほどの熱の入れよう。

話してるといつの間にかそっちの話になってる所が不思議だ。

だからオレも一応彼女が好きなそのマンガだけは毎週立ち読みして、あらすじぐらいは頭に入れてる。

ま、現実の男と浮気されるよりはよっぽどマシだし?

遊べないことを除いては何も不満はないから、もう一年近く付き合ってるわけだ。


いや、でもその遊べないのが問題かも?と思い始めてきた今日この頃…――






「じゃあ別れれば?」

「………」

和谷に相談するとアッサリとした返答が返ってきた。

「無理して合わすことないじゃん」

「まぁ…そうなんだけどさー…」

「お前が渋る理由が分かんねーよ。確かにオタクってとこ除けば、美人だしスタイル抜群だしさ、オシャレなとこもミーハーなとこもお前にそっくりで…似たものカップルでいいと思うぜ?」

「うん…」

「でもお前は遊びたいんだろ?今の彼女とだって最初はそのつもりだったって言ってたじゃん」

「た、たまには遊んでるぜ?今は…〆切前だから無理だけどさ、イベントが終わったら…」

「と同時に今年も終わりだな。年明けたらまたイベントが二週続けてあるんだろ?絶対二月になるまで遊べねーな」

「二月もオンリーがあるって言ってた…」

「………」

「………」

「「はぁ…」」

思わず同時に溜め息を吐いたしまった。


「ま、頑張れよ」

呆れたように冷たく言い放って、和谷は先に対局場へ言ってしまった。


確かに…まだ20のオレは遊びたい盛りだと思う。

言い寄ってくる女も多いし…、今の彼女を特別好きってわけでもないし……別に今の彼女と別れて他のちゃんと遊べる女と付き合うのもいいかもしれない。


でも何でオレが彼女と別れないか。

だって…彼女は恩人なんだ。


オレは塔矢が好きだ。

好きで好きで仕方なくて、でも男が男を好きになるのって変だよな?!って…ずっと隠してたオレの気持ちをあっさり肯定してくれたんだ。

もちろん直接言われた訳ではない。

でも彼女の話を聞いてると、自然とその結論を与えてくれるんだ。




――オレ、塔矢を好きでもいいんだ…って――


















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