●9 MEMORIES 4●





●○● ActC アルバム   ヒカル ●○●



「あった。これだ」


ウォークインクローゼットの奥に片付けてあった二人のアルバム。

デジカメを買ってからは色んなところに遊びに行く度に撮った大事な写真、思い出。

これを見ればアキラも何か思い出すかもしれない。

そう思ったオレはリビングの机の上にそれらを並べてみた。



「お風呂ありがとう…」

「オマエの家だぜ?いちいち礼なんて言わなくていいから」

「う…ん」


碁を打ち終えた後、オレは何とかアキラにここに泊まることを承諾させた。

入れ違いで風呂に入って、再びリビングに戻ってきた彼女に、隣に座るようソファーに手招きした。


「何それ?アルバム?」

「そ。抜けてる9年間が写ってるからさ、一緒に見ようぜ」

「…うん」

「ほら、これは知ってるだろ?初めての北斗杯の時の記念写真」

「あ、うん。それは分かる」


中国チーム、韓国チームとも合同で撮った集合写真。

まだ若くて幼い面子に、オレも久しぶりに見ると懐かしくて楽しくなった。


「これも分かるよな?その後すぐの若獅子戦。オマエがまた優勝したやつ」

「うん…キミと二回戦で当たっちゃったんだよね」

「くじ運ねーよなぁ、オレって」


クスッとアキラが笑った。

相変わらず可愛い笑顔。

今と同じ笑顔が、次の写真でも披露されていた。


「これ…は?」

「一緒に水族館に行った時のやつ。オレとオマエの初デート記念♪」

「初デート…」

「そ。ここってすぐ横に観覧車があるだろ?てっぺんで初めてキスしたの…覚えてない?」


途端に真っ赤になったアキラが、ブンブンと首を横に振った。


「こんな風に…さ」


顔を傾けながら近付ける。


「ちょっ…」


あと少しでゲット〜というところで、アキラに「ふざけすぎだっ!」と怒られて拒否された。


「ちぇっ…いいじゃん、キスの一つや二つぐらい。今まで何千回もしてるくせに」

「嘘をつくな!そんなにするわけないだろう!」

「嘘じゃねーよ。エッチする度に毎回何十回もチューしてるんだぜ?絶対合計は千単位になってるはずだ。もしかしたら万かも」

「う、嘘だ!僕は結婚するまで貞操は守るつもりだから…そんなことあるわけが……」


プッと思わず吹き出してしまった。

ああ…そういえば最初そんなこと言ってた気がするな。

でも、実際にオレらが初めて体を合わせたのは――


「あった、これこれ」

「この写真…キミの誕生日?」

「そ。オレの16歳の誕生日。プレゼントはオマエ本人だったんだぜ♪」

「…は…?」


アキラの顔が引き攣った。

そりゃそうだろう。

結婚まで貞操を貫くどころか、付き合って三ヶ月やそこらで彼氏に体を許してしまった現実を突き付けられたんだから。


「僕って…軽かったんだ…」

「別に軽くねーよ。優しいだけ。オレがどうしても欲しいって我が儘言ったからさ、覚悟を決めてくれたんだよ」


オレはもう一度、顔を傾けながらアキラに近付けていった。

肩に手を回して、尋ねる。


「…なぁアキラ。もう一回オマエの初めてを貰ってもいい…?」

「…え…?」


オレは彼女が承諾する前に――唇に吸い付いた。

記憶をなくした彼女にとって初めてのキスになるのに、全然初心者向けじゃない激しくて容赦ない口づけを――


「―…んっ、んん…ふ…」


でもアキラは拒否しなかった。

それどころか、積極的に絡めてオレの舌に返してくれる。

乗り気の時の、いつもの彼女のキスだった。

頭では忘れても…体は覚えてるってことなのかな。

じゃあ……


「ん…っ、あ…進…どう?」


いきなりキスを解いて立ち上がったオレは、アキラの手首を掴んで一目散に寝室に向かった。

彼女のベッドに一緒に倒れて、オレは上から再びキスの雨を降らせた。


「や…っ、んん…っ、ちょっ、…は…ぁ」

「アキラ……」

「し…んど…」

「いいだろ…?オレ…オマエが欲しい…」

「………」


アキラが下から睨んできた。


「…どうせ僕が嫌って言ってもする気なくせに…」

「オレのことよく分かってんじゃん…」

「昔からキミは強引だからね…」


そう言いながら、覚悟を決めたように大人しく目を閉じてくれた。

オマエも昔からそうだよな。

オレらの初めての時もそうだった。

結婚まで処女を貫きたいと打ち明けてきた彼女に、オレは正反対の我が儘を押し付けた。

くれなきゃ浮気するからな!と半分脅して、困らせて。

優しいアキラは結局折れてくれた。


でも、だからこそオレは一生彼女を大事にするって決めたんだ。

結婚だって、彼女が本当にしたいと思った今の今まで待った。

出来ちゃった婚にならないよう避妊は絶対に怠らなかった。



そう――結婚が決まっていざ一緒に住みはじめた二ヶ月前までは…怠らなかったんだ……



「…アキラ…」

「進藤…?なんで泣いて…」

「ごめん…ごめんな…」



やっぱり式まで待てばよかった。

そしたらアキラが倒れることも…式を中断することも…流産することもなかったのに…

また思い出して涙が溢れてきた。



「進藤…僕は本当に嫌なら意地でも拒否してる」

「え…?」

「結婚まで守るのは確かに理想だけど、僕だって人間だ。本当はキミに早く、体中で愛されたいって…思ってたのかもしれない。だから結果的に許したんだよ。今の僕も…きっと前の僕もね」

「アキラ…」

「キミが好きだからだよ…」

「オレも好きだ…大好きだ!」




この世界中の誰よりも愛してる―――










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