●9 MEMORIES 1●
●○● Act@ 結婚式 アキラ ●○●
「結婚しよう」
去年のクリスマス、僕は8年半も付き合った最愛の恋人、永遠のライバルである進藤ヒカルにプロポーズされた。
もちろん即OK。
お互いの親に改めて紹介・報告したり、結納をしたり、式場を決めたり、新居を決めたり。
僕らは結婚までの慌ただしいスケジュールを、棋戦の合間をぬってこなしていた。
そうして迎えた結婚式の日―――5月5日。
僕は純白のドレスを身に纏って、大勢の家族・知人の前で、彼との一生の愛を誓ったのだった。
―――が
披露宴の途中で、僕は酷い腹痛に襲われた。
でも、今日の主役が席を外すなんて失礼なことはしたくない。
その為に式を中断するなんて恥ずかしいことは絶対にありえない。
一生後悔する。
そう思った僕は、とにかく耐えた。
大丈夫、あと30分もすれば終わる。
作り笑顔は大の得意だ。
「…アキラ?大丈夫か?」
でもすぐ隣にいたヒカルは僕の異変に気付いたらしい。
心配そうに僕の顔を覗いてきた。
「平…気…」
「でも変な汗出てるぞ?腹痛いのか?トイレ行ってくる?」
トイレに行ったぐらいで治る痛みじゃないってことは気付いていた。
だから首を横に振った。
「あと…30分…ぐらいだし…、なんとかなる…」
「そう?」
「うん…」
でも、なんとかならなかった。
最後のメインイベント、花嫁が両親に贈る感謝の手紙を読む時間になった時には、僕は半分意識が飛んでいた。
それでも何とか読み上げたのだろうか?
拍手が聞こえる。
でも僕の記憶はここまで。
「アキラっ?!」
「アキラさん?!」
「アキラ君っ!!」
皆が僕を呼ぶ声が聞こえて―――目が覚めると、僕はどこかの病院の、どこかの病室の、ベッドの上に寝かされていた。
あーあ…
「あ、気付いた?」
「ヒカル…ここ…」
「式場近くの病院だよ」
「………ごめん」
結局倒れてしまった自分が情けなくて、恥ずかしくて、僕はシーツで半分顔を隠した。
「結婚式…台なしにしちゃった…」
「んなこと…、大丈夫だから。泣くな」
「怒ってない…?」
「…ま、ヤバいと思ったらすぐに下がって欲しかったけどな…」
「ごめんなさい…」
「ん、でも…アキラは無事でよかったよ…」
ヒカルの目から涙が溢れた。
僕が無事でそんなに嬉しいの…?
「じゃ、オレ医者にオマエの意識が戻ったって伝えてくるから」
「え?うん…」
わざわざ行かなくても、ナースコールを押せばいいだけじゃないのか?と思ったのだが、ヒカルは行ってしまった。
喉が渇いたな…。
ついでに何か飲み物でも買ってきてもらおう。
そう思った僕は、急いでベッドから降りて、点滴を引き連れてドアに向かった。
「――アキラさん気付いたの?」
ドアのノブに手をかけたところで、話し声が聞こえた。
お母さんとヒカルの声だ。
「もう話したの?」
「いえ…、様子を見ながら追い追い…と思っています」
「そうね…、その方がいいわね。ショックが大きいでしょうし…」
「オレも涙が止まらなくて…」
何の話…?
「オレ…ちゃんと気付いてやれてたのに…。何ですぐ下がらせなかったんだろうって…後悔でいっぱいです。もう少し早ければ…間に合ったかもしれないのに…」
「そうね…、すぐ病院に来ていたら助かったかもしれないわね…赤ちゃん」
赤ちゃん…?
僕は無意識にお腹を押さえた。
そういえば…もう一ヶ月以上生理が来ていない気がする。
もしかして妊娠していたの…か?
じゃあ…あの痛みは………
一気に血の気が引いた気がした。
もし我慢せずに…すぐに病院に来ていれば……
僕のせい…?
僕のせいだ……
子供より結婚式を…体裁を取った僕のせいだ………
「い…や……いやああぁぁぁっっ!!!」
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記憶喪失話スタートです!