●3rd FEMALE+β 6●


「へー、塔矢って韓国語と北京語習ってるんや」

「うん。まだ基本しか身についてないんだけど」

「それでも凄いって!俺や英語ですら無理やもん。テストもいつも赤点ギリギリや」

「はは」


オレが風呂から出て来ると、塔矢と社が楽しそうに話していた―。

何かムカつく…。


「お、進藤出たんか。お前は塔矢が韓国語とか習ってんの知ってた?」

「知らねぇよ…」

睨みつけると、塔矢が立ち上がった。

「習い始めたのは半分キミのせいなんだからな!」

「はぁ??何でオレのせい?!」

「キミが碁会所に来なくなったから、僕は放課後が暇で仕方なかったんだっ!」

「他の奴と打てばいいじゃん!」

「誰と?!僕は打っていてキミ以上に白熱出来る知り合いはいない!」

「オレだっていねーよ!」

「じゃあ何で来てくれなかったんだっ!」

「オマエとの差を縮めるためだよっ!予選にも通らない奴がオマエとタメ口聞くなって碁会所のジジィどもに言われたくなかったしな!」

「僕との差を縮めたいなら、僕と打つのが一番手っ取早いじゃないか!」

「ああそうだよ!だから言ったあとにすげー後悔したの!もういいじゃん!今は打てるんだし!」

「全然良くない!あの4ヶ月間で僕がどんなに損したか―」

「はい、ストップ」

社がオレらの間に分け入ってきた。

「お前ら自分らを褒め合いながらケンカしてどうすんねん」

「褒めてなんかないっ!」

塔矢がキッと社を睨みつけた。

「はいはい、お前らがお互いを必要としてんのはじゅーーーぶんに分かったから、過去のことで言い争いする暇があったらもう一局打ちや」

「そうだな、打とうか進藤」

「えーー、もう11時だぜ?明日でいいじゃん。な?お休み、アキラちゃん」

「変な呼び方するなっ」

「はいはい、塔矢様お休みなさいませ」

「お休みっ」

塔矢を無理やり客間から追い出すと、プンプンと怒りながら自分の部屋に戻っていった。


「「 はぁー…」」


社と同時に溜め息をついて、布団に倒れこむ。


「…何ていうか、塔矢ってすごい性格やな…。昼間倉田さんが来とった時はめっちゃ大人しかったのに…」

「アイツ外面いいんだよ。碁会所で受付のお姉さんとか、常連客に振る舞ってる姿見たらお前ビビるぜ?ブリブリでめちゃくちゃ可愛い子ぶってんの。有りえねーよアレ」

「さっきも進藤が来るまでは可愛い感じやっんやけどなぁ…」

「そうなんだよっ!アイツってオレの前だけ素出して毒舌吐くんだぜ?!ホント可愛くねー!可愛いけど可愛くねぇ!」

「はは…」

どっちやねん…と呆れながら社は布団から立ち上がった。

「電気消すで?」

「ああ」


あー、ムカつく!

社と二人きりの時は可愛くしてるくせに、何でオレが来た途端ああな訳?

オレにもちょっとぐらい笑顔見せてくれたっていいじゃんっ!


「塔矢はお前のこと気に入ってるんやな…」

「はぁ?!アレのどこが!」

「だってお前の前だけ素出してくれるんやろ?それって気を許せる奴にしか出来んと思わへん?」

「そうか…?」

「うん。さっきも言うたけど、ホンマ告白してみ?絶対成功すると思うわ」

「……」

「あれ?進藤はもしかして塔矢のこと好きとちゃうん?てっきりそうやと…」

「………好きだよ」

布団に潜って小声で言うと、社がやっぱりな、と笑ってきた。

「告らんの?上手くいくで〜きっと」


…んなこと分かってる。

分かってるけどダメなんだ。

まだ早い…。


「…社はオレらのやり取り見てて…どう思った?」

「どうって……めっちゃ激しかったな。俺らの年代で異性とあすこまで言い合えるんも珍しいで?」

「うん…オレらってケンカばっかしてんだよ。…だからさ、付き合ってもたぶん…すぐ別れる」

「あー…お前それが心配なんや?」


そうだよ…?

別れちまったら意味ないんだ。

塔矢はプライドの塊のような奴だ。

一度別れたらもう二度とオレの元には戻ってきてくれない―。


「…だから告るのはもうちょっと精神的に成長してからにするよ。ケンカとかしてるうちはまだダメだ…」

「…お前それ何年後の話やねん。あんまりのんびりしてたら、他の男に取られてまうで?あいつ結構可愛いし―」

「んなこと分かってるさ!だから悩んでんじゃん!」

布団から体を起こして、社を布団ごと引っ張った。

「なぁ、いつ告ったらいいと思う?オレの内面が大人になって、アイツがまだフリーなのっていつ?」

「そんなん分かるかいっ!」

社も呆れたように布団から起き上がった。

「別れたくないんやったら、別れれんようにしたらいいだけの話やん」

「どうやって?」

「そりゃあ……既成事実作ってまうとか?」

「は?」

「ほら、塔矢って堅物やから…初めての男に人生捧げそうやん?」

「えー…そうか〜?今は江戸時代じゃねーんだぜ?」

「ほなもういっその事、孕ませてしまえ!そしたら完璧や!絶対お前から離れへんわ!」

社が手をヒラヒラさせて提案してきた。

オレは一瞬固まってしまったけど、でも――


「………なるほど。…それいいかも」

「だろ〜?あの塔矢だったら絶対子供はおろさんと思うし、子供の為にも父親は必要やって考えるはずや」

「だよな!社お前って天才っ!」

「ははは、もっと褒めて」

「んじゃオレ早速実践してくる!」

「へ?!ちょ、ちょっと待てや進藤!!」

部屋を出て行こうとしたオレの手を引っ張って、社に引き止められた。

「今はまだあかんのに決まってるやんっ!」

「何で?もう子供ぐらい作れるし」

「アホかっ!作れても結婚出来な意味ないやんっ!子供を私生児にするつもりか!」

「あ…そっか。じゃあ18までは無理?」

「そういうことやな」

「………」


何だよあと3年はダメじゃん…。

そんなに待ってたら他の男に横取りされそうだぜ。

…いや、待てよ?

生まれた時に結婚してればいいんだから…作るのは17でも大丈夫だな。

んじゃ17になった冬あたりに告って、ケンカする前にさっさと作ってしまおう。

そしたら絶対アイツは別れない。

結婚して、一生オレの側にいてくれるよな!?







――それから約1年半後

17になったオレは計画通り、年が明けたのを見計らって塔矢に告白した。


「塔矢、付き合ってくれない?」

少し考えたアイツは期待通りの返事をくれた。


「うん、いいよ付き合っても」







――すべてはここから始まったんだ――










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