●3rd FEMALE+β 5●
「じゃあ先にお風呂いただくね」
「ああ」
「ごゆっくり〜」
――合宿2日目
昨日は交替で仮眠を取りつつ一晩中打ってたわけだけど、今朝来た団長の倉田さんに睡眠もちゃんと取るように言われたから、オレらは今夜は早めに寝ることにした。
「…塔矢アキラって噂以上の棋力やな。オレ全然敵わんわ」
「何弱気になってんだよ!気持ちで負けたら終わりだぜ?」
ガチャガチャと碁石を片付けながら社に活を入れた。
「…進藤って塔矢のライバルなんやってな?」
「そうだよ。オレはアイツに棋力で負けてるなんて思ったことないね。塔矢の方が先にプロになったから、その分ちょっと上に行ってるだけだ。すぐに追い抜いてやるさ」
「えらい自信やな、あの塔矢相手に。でも何がすごいって、その塔矢の方もお前のことを意識しとるってことやな」
「……」
「予選の後な、越智っていう奴が言よったんや。『塔矢って相変わらず進藤しか見てないよね』ってな。ほら、俺とお前の対局が終わったらすぐにあいつ帰ってもたやん?だからだと思うけど―」
「はは…昔っからそうなんだよ。アイツってオレしか眼中にないみたいで」
「何や何や、まるで彼女にべた惚れされてる彼氏みたいな言い草やな」
「え……」
たちまち顔が赤くなったオレを見て、社は更にからかってきた―。
「でも告ったら絶対成功すると思うわ」
「な、な、なに言ってんだよっ!別にオレらはそんなんじゃ…」
「あれ〜?顔が赤いで進藤クン。何や〜もしかして本気でするつもりやったん?」
「んなわけねーだろっ!オレ別にアイツのことなんか――」
その続きが出てこなかった。
『アイツのことなんか何とも思ってない』
…なんて、嘘でも口に出したくない言葉だ―。
そうだよ社…。
オレはアイツが…塔矢が好きなんだ。
ずっとずっと昔からな―。
―そしてお前の言う通り、告白したらたぶん成功するだろう…ってことも分かってた。
分かってるんだけど――…出来ない…。
「お待たせ。次どっちが入る?」
「あ、先いい?進藤」
「いいぜー」
社がバタバタと風呂場に向かっていった。
塔矢はパジャマにカーディガンを羽織ってて、既に寝る格好になっている。
「進藤、客間に布団敷くから手伝ってくれる?」
「分かった」
碁を打っていたのはいわゆる居間の場所で、襖を挟んで客間があるらしい。
緒方さんや芦原さんを含む塔矢門下の人がよく泊まるらしく、押し入れにはかなりの数の布団が入っていた。
「オマエは自分の部屋で寝るの?」
「当然だ」
「布団?ベッド?」
「布団だよ」
「はは、やっぱりな。この家にベッドは似合わねーよなー」
「洋室自体がないからね」
少しガッカリしたっぽい塔矢の横顔が見てとれた。
「なに?やっぱオマエも洋風の家とか憧れなわけ?」
「いや、和室の方が落ち着くからそんなこともないんだけど…、……そうだね。やっぱり一度は住んでみたいかも―」
「はは、じゃあ将来家建てる時はそうしたら?オレも純和風のよりかはそっちの方が好きだし」
「え?」
「あ、いや、その…オレを含め世間一般から見たら普通そうだろ?」
あははは…と笑って誤魔化した。
やべーやべー。
何言ってんだオレ!
あれじゃあまるでオマエと住みたいって言ってるようなもんじゃん!
だけど塔矢の顔は満更でもなく…嫌がってるどころか少し頬が赤くなってたりするから……確信出来たりするんだ。
今告ったらたぶんイケるな…って―。
だけど所詮オレは15のガキじゃん?
我が儘で、負けず嫌いで、自己チューで、意地っ張りで…カッとなると抑えがきかなくてさ、他人を傷つけるようなことも簡単に口走ってしまう。
ただでさえ一日一回は口喧嘩してるようなオレらだもん。
もし上手くいって付き合ってもさ……すぐ別れるのは目に見えてんじゃん。
それじゃあ困るんだよ…。
オレは塔矢のことが本気な分、ちゃんとした付き合いがしたいんだ―。
だからまだ告れない…。
もう少し自分で自分を制御出来るようになって、喧嘩なんてしないほど大人になってからでないと―。
――だけどそんな風に成長するまで…あと何年かかる…?
もしその間にオレよりアイツに相応しい奴が現れたら…?
絶望的じゃん…。
それまでにアイツを手に入れないと―。
だけど早過ぎたらダメだし…、タイミングが難しい…。
一体いつが一番いいんだ…?
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