●3rd FEMALE+β 4●


打ち掛けにしていた対局を終わらせた後、次はアキラが社と打ち始めた。

オレは横でコーヒーを飲みながら、ソファに寝そべって優雅に観戦。


「塔矢とも本因坊リーグ以来やな」

「そうだね。あれからどう?他の棋戦とかは―」

「あー…全然あかんわ。明日の碁聖は何とか最終予選にまで来れたけど、棋聖も名人も他のは二次予選止まりや。天元戦や一次で負けてもたし。まぁ決勝だったんやけどな」

「関西の方も強者揃いだからね。鵜野プロとはよく当たるけど、彼も見こみがありそうな若手がまた増えてきたって言ってたよ」

「そうなんよなー。この春に入段した保田っていう奴とも、師匠繋りで何度か対戦したことがあるんやけど…勝敗五分五分やし」

「へー、オレも対局してみたいな。早く上がってこねーかな〜」

社がはぁ…と溜め息をついた。

「進藤は余裕そうで羨ましいわ…。オレら下っ端は必死やねんで?出来ればもうこれ以上強い奴や来んといて欲しい―」

「何で?強い奴とするのってワクワクしねぇ?」

「そりゃあ…まぁな。でもこの世界で生き残ろう思たら…やっぱりなぁ」

「んな弱気だったら明日負けるぜ?」

「分かっとるわっ!ほなけん塔矢と打って気を引き締めてから、明日に備えるんやっ」

バチッと気合いの入った一手を社が打った。

上部の左右に一気に睨みを利かせれるいい手だ―。

オレも姿勢を正して観戦することにした。


余裕…か。

そんなものオレだってない。

去年の終わりに黒星を付けまくったせいで、オレだってまた今シーズン…予選からのタイトル戦も結構ある。

この前の名人戦だって、4勝3敗のギリギリだった。

もっともっと頑張らねぇとアキラにおいて行かれる。

見放される…。


社…。

アイツに見合う夫…ライバルのポジションを守り抜くのがどんなに大変か…お前に分かるか―?







「…ん…っ―」

社が風呂に入っている間に、オレはアキラと夫婦の時間を楽しむことにした。


「……は…ぁ…―」

唇を離した後、頬や額…顔中にキスをして、同時にお腹も撫でてみる―。

「順調そうだな。よく動いてる…」

「うん。早く出たがってるみたい」

「オレも早く会いたいな。1ヶ月も待てねぇ…」

「でも今産まれたら、ヒカル賭けに負けちゃうね」

「別にいいよ、負けても―。それより早く会いたいぜ」

アキラの腰に手を回して、顔をお腹をに引っ付けた。

「…この前ね、実家に佐為を迎えに行った時、伯母さんが来てたんだ」

「へー。明子さんのお姉さんの方?それとも先生の妹?」

「お母さん側の方。でね、このお腹を見られて『10代で2人も産んだら、20代では一体何人産むつもりなの?!』って言われちゃった」

「なんだそれ」

笑ったオレの髪にアキラがキスしてきた―。


「…僕は何て答えたと思う?」

「んー…『出産は10代で終わらしておくんです』とか?」

「ハズレ」

「じゃあ何?具体的な数字言ったの?1人とか2人とか出来た数だけ〜とか?」

「うん、正解」

「え…マジ?」

お腹に抱き付いてたオレと同じ視線の高さになるように座って、今度はアキラが抱き付いてきた―。

「出来ただけ…って答えておいた―」

「……ありがと」

少し頬を赤くしたオレに、優しくほほ笑んで来る―。

「僕は今すごく幸せなんだ。キミの子供を身ごもってるとね、今日みたいな遠征も…全然寂しくなかった。キミとこの子で繋ってるみたいで―」

「…嬉しいこと言ってくれるじゃん。そうだよ、オレとオマエは元は他人だけど、この子や佐為が繋げてくれてんの。子供の力ってすげーよ…」

「そうだね―」


だから何人いてもいい―。

子供の数だけ繋りが増えるってことだし―。

オレも幸せだよ―。

大好きなオマエがオレの子供を産んでくれるってだけで――すごく幸せだ。







「お、俺の布団も敷いてくれたんやな。進藤も一緒にここで寝てくれるん?」

「ああ。いい機会だし、寝る前にお前と話したいしさ」

「何話す〜?やっぱY談?」

「………」

「冗談やって、そう睨まんといてや」

「別に睨んでねーよ…。ただお前と話す時っていっつもそっちの話になるなって呆れただけ」

「はは、そういやそうやな」

社が笑いながら布団に入った。


「進藤とも何だかんだ言いながら、もう4年もの付き合いやな」

「あー…そんなになる?」

「北斗杯の予選で初めて会ったんよな。お前のその髪の色には驚いたわ」

「お互いさまだろ。白髪っ」

「いい色やろ?気に入ってんねん」

「ふーん」


まぁ…似合ってるから否定はしねーけど。


「その次会ったんは北斗杯前の合宿やったな。塔矢ん家でやった」

「うん、あれはすげー楽しかった。朝から晩まで打ちまくれたし」

「進藤は塔矢と一緒やったから楽しかったんとちゃうん?」

「なっ…」

「今でも覚えてるで?お前のいきなりの爆弾発言♪」

「わーわーわーっ!!」

思わず耳を塞いで大声を出した。

社がくっくっと笑ってやがる。

くそっ!

さっさと忘れやがれ!



――そう

忘れもしないあの合宿――




――あれがすべての始まりだった――










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