●3rd FEMALE+α 1●


どうして僕はこんなに意地っ張りなんだろう…。



気持ち悪い…。

洗面室で吐いていると、お母さんが入ってきた。


「アキラさん…あなたもしかして妊娠してるの?」

「……」

「今何ヶ月目なの?」

「……3ヶ月」

「ヒカルさんは知ってるの?」

「……」

「どうして言わないのっ!ヒカルさんとの子供なんでしょう?!」

「……」

「もうっ!昔っから変な所で強情なんだから!」

母は僕の行動に呆れ、怒っていた。



強情…?



確かに…そうかもしれないな。

どうしてあの時あんなにも言うのを拒んだんだろう…。

何であすこまで20日に拘ったんだろう…。

さっさと言ってしまえば良かった…。


どうして別居だなんて、離婚だなんて言葉を持ち出したんだろう。

そんなに怒ってた?

キミに無理やりされたこと…。

もし僕が素直に言ってたら、ヒカルもあんなことしなかったよね…?

何だかんだ言いながら、僕の体を一番に心配して…大事に扱ってくれていた。


だけど、意地っ張りな僕の部分が追ってきたヒカルを困らせようとした。

子供を作ったからって僕を手に入れたつもりでいるなよ?!って―。

子供がいたって別居も離婚も僕だって考えるんだぞ!って―。

だけど、何でキミはそれを承諾するんだ?!

いつものように、強引に、僕をつなぎ止めておけばいいじゃないか!

僕だってそれを望んでる。

キミと一緒にいることを望んでる。

だからキミが別居を承諾した時、頭にきた。

「佐為にも会わないで」

ってとどめをさした。

もうキミなんて知らない!

一生佐為にもお腹の子にも会わないで!

僕だけで育ててやる!

キミの力なんて借りるもんか!


「……」


そう思ってしまった自分の気持ちに反吐が出る。

無理に決まってるじゃないか…。

僕は一人で二人も育てていけるほど、強くない…。

大人じゃない…。

子供の為にも父親は必要なんだ…。

子供から父親を取り上げる権利なんて僕にはない…。

でも…

だからって…

どうすればいいんだ…?

恥ずかしくて今更言えないよ…。

いざキミの近くまで来ると、また意地っ張りな自分が出て来るんだ。

キミを…無視しちゃう…。

キミが僕に話しかけたそうにしてるのは知っている。

僕だって話したい。

お腹の子のことも…佐為が歩くようになったことも…。

いっぱい話したい…。

キミと育てていきたい…。

キミの元に帰りたい…。


だけど時間が立ち過ぎた…。


今更…もう…言えないよ…。







もうすぐ佐為と僕の誕生日。

結局別居したまま、3ヶ月近くが過ぎてしまった。


「進藤先生、ここんとこずっと調子悪いよね」

出版部に立ち寄った時、天野さんが僕に聞いてきた。

「ほら、塔矢先生に惨敗した本因坊戦の一局。あれ以来だよ、ほとんど負けてる。どうしたの?彼」

「分かりません…」

としか答えるしかなかった。

天野さんは続けて勝敗表を見ながら分析し出した。

「この調子じゃ来年本因坊のリーグ残留は危ういかもしれないね…。十段と天元の本選もだけど。来月から名人戦の防衛もあるのに…」

「……」

「緒方先生も芹澤先生も今調子いいからなぁ…」

「……」

「塔矢先生も結構調子いいよね?名人戦、今度の倉田先生に勝てば緒方先生とプレーオフでしょ?頑張ってね」

「はい…ありがとうございます」

「進藤先生にも頑張るよう伝えておいてね」

「…はい」


出版部を後にして、僕はエレベーターに乗った。

ヒカルは別居し出してからずっと負けが続いている。

僕のせいだ…。

キミの無様な姿は正直見たくない…。

…でも、今の僕にはどうすることも出来ない…。



「……ぅ」

お腹が窮屈で思わず吐きそうになった。

苦しい…。

お腹の子ももう6ヶ月目。

そろそろパンツスーツは厳しいかもしれない…。

ゆったりとしたワンピースに変えようかな…。

…でも、変えてしまったら確実に気付かれるよね…。

ただでさえ僕はスカートなんて滅多に穿かないんだから。

でもいつまでも隠し通せるものじゃないし…。

隠すのなら、手合いを休まなければならない…。

それだけは絶対に嫌だ。

キミが僕の妊娠に気付いた時、どんな態度を取るのか楽しみにしておくよ…。



チン



「進藤っ!ごめん遅くなった!」



進藤…?



1階に着くと、ロビーにヒカルと和谷君の姿があった。

思わず見つからないよう隠れてしまった。

「何それ?」

「ん?来週のイベントの詳細…」

「お前さ…手合い散々なのに、そんなの手伝ってる場合じゃないだろ」


全く和谷君の言う通りだ。

イベントより手合いをまず第一に考えろ!

キミは一応名人なんだぞ?!

期待を裏切るようなマネをするな!


「…いいんだ」

「で、何のイベント?」

「小学生までの囲碁体験教室だよ」



え…?



「あぁ、お前昔っから子供好きだもんなー」

「…うん」



ヒカル…。



「あ、分かった。お前自分の子供と重ねてるんだろ?」

「……」

「あれから会えたのか?」

「……」

「会いたくって仕方がないって顔だな」

「…ったりめーだろ」



……。



「もうすぐ誕生日じゃなかったか?」

「…うん」

「何かしないのか?」

「…何かって…だって…会えねぇのに…」


その言葉を聞いた途端、僕はヒカルの所に歩きだしていた。


「進藤っ!!」


僕の声に振り返ったヒカルが目を大きく見開いた。

「アキラ…?!」



バシッ



気がついたら思いっきりヒカルの頬を叩いていた。


「会いたいのなら!強引にでも会いにくればいいじゃないか!なに僕との約束を忠実に守ってるんだ!キミらしくないっ!」

「え…」

ヒカルがいきなりのことに茫然としてる。

めちゃくちゃなことを言ってるな僕は―。

「キミっていっつもそ……―――」

「アキラ?!」



え…?



突然世界が歪んだ気がした。

真っ黒になって…

僕はまた倒れてしまった。

それもヒカルの前で…。

これって運がいいのか悪いのか…。








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