●2nd FEMALE + 8●
この旅館には大浴場が3つあるらしい。
その中でも露天風呂のある1階の大浴場に、オレと社は浴衣に着替えて一緒に向かうことにした。
「オレ、浴衣結構好きなんよな〜」
「あ、分かる分かる。オレも好き」
「あの隙間から見える肌とか、帯一つで解けてまう儚さとかイヤラしくて堪らんわ。日本文化万歳やなっ」
「ははっ、何だそれ」
「あ、ここやな」
中に入ってみると脱衣所自体も結構広かった。
「まだ3時やから結構空いてるな」
「うん、中もあんまり人居なさそう。ラッキー」
予想通り中もガラガラで、向こうの方に数名老人がいるだけ。
ほぼ貸し切り状態だった。
「あ〜、温泉って最高や〜」
「じじくせェな、社」
「ウルサいわ」
でもホント気持ちいいかも…。
やっぱ冬は温泉だよなー。
癒されるぜ…。
「…さっきはゴメンな、進藤」
「ん〜?何が〜?」
「塔矢のことで気まずうなってもて…」
「あぁ…別にいいよ―」
「で、実際のところどうなん?塔矢と仲良く出来よん?」
「……まぁ、…ほどほど…には」
「ふーん…」
急に声のテンションが下がったオレを見て、社がまた気まずそうな顔をした。
「ここんとこ忙しくてさ…あんまり時間合わねぇんだよ…」
「またすぐ名人戦やもんな」
「あぁ…このイベントの後すぐ札幌で、3日ほどまた家に帰れねぇし―」
「大変やな…」
「塔矢の方も忙しくてさ、佐為も両親に預けてばっか…」
「……」
「今はまだいいけど…佐為が物心ついても今のような生活だったら、ちょっと考えなきゃなんねぇかも―」
「…そやな」
「だから…その…、正直な話…あんま出来てない…」
「だと思ったわ…」
社がはぁ…と大きな溜め息をついた。
「何かお前らまだ反応が初々しいもん…。とても子供がおるような仲に見えへん」
「え…マジ?」
「ちょっと急ぎすぎてもたんちゃう?」
「……お前のせいだろ」
「はい、そうでした、すんません」
でも社の助言がなかったら、オレは今頃こうしてアキラと一緒にいなかったかもしれない…。
「…なぁ、もう何日してないん?」
周りを気にするように小声で聞いてきた。
「………5日」
「なんだ、全然出来てないことないやん」
「でもな…結婚してからまだ指で数えれるぐらいしかしてねェ」
「え…ひと桁?!4ヶ月も経つのに?!」
「……」
「それはちょっと…新婚とは思えん…。あ、でも妊娠期間除けたら…1ヶ月半ぐらいやから……まだ許容範囲やっ!」
社が引きつりながらもフォローしてくる。
「…オレさ、付き合ってた時に一度塔矢にフラれかけてんだよ…」
「えっ?!それ初耳やわ!何で?浮気でもしたんか?」
「まさかっ!………その…、ヤりすぎで…」
「は?」
「だから…早く妊娠して欲しくて…会う度にしてたら…、塔矢に…キレられた」
「会う度ってお前…、それどのくらいの頻度だったん?」
「週に…4、5回」
「アホやろ。塔矢に同情するわ」
社がまた大きな溜め息をついてきた。
「だってアイツ排卵日分かんねぇっていうからさ…、手当たり次第でいくしか…」
「うわー…、お前の話聞きよったら、子供は授かりものっちゅう夢は崩れるな」
「……」
「ほな、今度はあんまり無理すんなよ。1ヶ月半でひと桁で十分や」
「うん…」
「ただでさえ塔矢は、仕事も子育てもあって大変やのに…その上お前の相手までしてたら倒れてまうで」
「…だよな」
「とは言っても…しょせん俺も男やからよく分からん。ちゃんと塔矢と話し合いや?」
「分かった」
その後社は、お前らの忙しさでどうやったら週に5回も出来るんや?と首を捻っていた―。
社とエレベーターホールで別れ、部屋に戻ると――アキラも浴衣に着替えていた。
可愛い…。
「温泉どうだった?」
「良かったぜ。今の時間なら全然混んでねーし」
「じゃあ僕も入ってくるよ。佐為よろしくね」
「あぁ」
バタン
「はぁ…。佐為〜、オレどうすればいい?」
すやすや眠っている佐為の隣りにオレも横になって、話しかけた。
オレって行動めちゃくちゃだよな…。
今だってアイツの浴衣姿にちょっと…欲情しちまった。
回数抑えるんだろ?!
でもたぶん今晩は抑えは利かないな。
うん、無理だ。
「……」
はぁ…、オレって最低…。
「アイツは…どう思ってんだろ…」
佐為の頭を撫でながら、優しく額にキスをした。
やっぱ可愛いよな…。
男でこの可愛さなんだから……女の子だったら一体どうなるんだ??
社の言ってた通り、やっぱ次は女の子がいいよな〜。
将来モテモテ間違いなし!だ。
でもくれぐれも碁の世界には来させないようにしねぇと…。
アキラ見てると碁で青春が終わるの確実だからな。
アイツってオレがいなかったら一体どんな人生だったんだ…?
きっと普通に寄り道なくプロになって…勝ちまくって…そのまま碁ばかりで10代終わって…20過ぎぐらいで後援会にお見合いでも進められて…結婚して…子供産んで…育てて…めでたしめでたし、かな。
……普通だな。
でもオレに出会ったばかりにプロになるにも寄り道して……その後も……。
オ、オレってもしかしなくてもアイツの人生狂わしてる?!
そ、それってアイツにとって幸なのか??不幸なのか??
確実に不幸に近くないか??!
「ご、ごめん、アキラっ!」
「何が?」
え…?
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