●2 NIGHTS 3 DAYS U 1●
消灯前に部屋を抜け出した僕は、精菜の携帯に電話することにした――
プルルルル
プルルルッ
『もしもし?!』
2コールで繋がった先に聞こえてきたのは、精菜の明るい声。
思わず笑みが零れる―。
「精菜もう寝てた?」
『ううん。さっきまでお父さんと一局打ってたから。今は彩に借りた本読んでるの』
「彩が精菜に本?!それ絶対マンガだろ」
『ピンポーン。でもすごく面白いよ。今読んでる本もね、主人公と彼氏のいざこざに目が離せなくて………あ』
「ん?どうかした?」
『う…ううん。ちょっと次のページ捲ったらね……その二人がキスしてて…ちょっとビックリしただけ』
精菜の声が少し焦ってる。
きっと電話の向こうで真っ赤な顔してるんだろうな…。
見れないのが惜しい…―
「……じゃあ僕らもキスしようか」
『え?どうやって…?』
「口の代わりに携帯にキスするんだよ。いち、に、で同時に」
『うん…。じゃあ…』
「いくよ?」
『うん』
「いち、に…―」
ちゅっ…と音も鳴らして、そっと携帯にキスをしてみた。
しばらくの間、無言の通話の状態が続く――
「…好きだよ、精菜…」
『私も…』
「じゃあ…お休み。声聞けて良かった」
『私もだよ。お休み、佐為…』
ピッ
携帯を閉じて時計を見ると、既に10時の消灯5分前だ。
明日は班別の自由行動だったよな。
クラス委員兼班長の僕は当然またしてもまとめ役。
考えるだけでも気が重くなるけど…、でも、精菜の声を聞けたから少し気が楽になった。
早く帰りたいな。
早く精菜に会いたい――
「お、委員長お帰り〜。彼女と密会か〜?」
「んなわけねーだろ」
部屋に戻ると、相変わらず下ネタ込みの恋バナで盛り上がっていた。
「おしっ、じゃあ次は青木の番な!」
「えー…」
青木が恥ずかしそうに枕に顔を埋める。
「誰が好きなんだよ?吐け吐け〜」
「うわー…進藤がいるから話しづれぇ…」
「「「え?」」」
全員が一斉に聞き返した。
僕の方も思わず青木に詰め寄る。
「僕がいたら?それってどういう意味?」
「いや…だからその…」
まさか…
青木も精菜のことを…?
「えーもしかして青木って…ホモ?」
「マジ?!」
「うっそ!」
「ち、違うって!!」
一人が言い出した冗談に周りも悪ノリし、青木は慌てて訂正する。
「俺が好きなのは彩ちゃんなんだって!」
「…彩?」
彩って…進藤彩?
僕の妹の?
あー…なるほどね。
だから僕がいたら話辛かったのか。
「あ〜進藤の妹か」
「確かにすげー可愛いもんな」
「確か守口も気になってるって言ってぜ?青木ピーンチ」
「………」
彩が6年の男子にも人気があるっていうのは聞いたことがあったけど、いざ彩の話で盛り上がってる所を目の当たりにすると………ちょっと複雑な気分になる。
青木や守口程度の男にやれるわけがない。
彩に似合うのは、もっとこう…我が儘なアイツを広い心で寛容出来る、人生経験豊富な大人の男性だと思う。
…とは言っても本当に大人と付き合うと犯罪になってしまうので、もうしばらく…最低でも高校生になるまでは男女交際は厳禁だな。
(同い年の精菜と既に付き合ってる僕が言うのもなんだけど)
「進藤、青木に彩ちゃんの好みとか教えてやれよ」
「え…」
何で僕が…。
というか彩の好みなんか知るか!
「取りあえず…囲碁が打てないと問題外だと思う」
「え?囲碁?」
「うん。彩は強い奴にしか興味がないから」
そうなんだ。
彩は意外にもそういう所は母にそっくりで、自分より弱い奴に興味はまず持たない。
父と母の出会いのように、彩に大差をつけて勝つような奴が同年代で現れれば……彩はイチコロだと思う。
まぁそんな奴がいれば…の話だけど。
「囲碁かぁ…。俺触ったこともないかも…」
「じゃあ彩は諦めるんだな」
「おおっとー!お兄様は意外にキツいお言葉です!これは先行き怪しいですねぇ青木君」
「ウルサい」
青木が悪解説をしたそいつにチョップをくらわせた。
「んじゃ次は進藤の番な!今度こそ彼女の名前を吐いてもらうぜ!」
「ウルサい」
僕も同じようにチョップして、電気のスイッチを消しに起き上がった。
「もう消すな?明日は6時半起床、7時から朝食だから寝坊するなよ」
「「「はーい」」」
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アキラもイチコロでした…