●2nd FEMALE + 2●
「進藤、今日タイトル戦でもないのにずいぶん気合い入ってるな」
――昼休み
ロビーで足組みをして真剣な顔をしていたオレに、通りがかった緒方さんが話しかけてきた。
「えぇ…まぁ―」
「お前のことだからアキラ君絡みか?明日ようやく家に帰って来るんだってな?塔矢先生から聞いたよ」
「……はい」
オレが何を考えてるのか察したように、緒方さんは笑いながら
「ま、ほどほどに頑張れよ」
と言って去って行った。
そう…明日は月曜日。
いよいよアキラが帰ってくる―。
上手くいけば9ヶ月ぶりに――アイツを抱けるんだ。
今度こそ失敗は出来ない。
正直最後に抱いた日、アイツは嫌々抱かれていたのに近い。
だから3日後――フラれかけた。
原因は?
それはあの言い争いの中でアイツが言っていた
『回数の問題!キミは会う度に求めてくるじゃないか!』
『せめて避妊をしてくれ!』
この2つだ。
避妊をしなかったのは子供が欲しかったから。
そして2日と空けず抱きまくったのもその為だ。
「オマエの排卵日っていつ?」
これは2回目のデートでオレがアイツに尋ねたセリフ。
子供を作るには月に一度の排卵日を狙わなければならないということはオレも知っていた。
他の日にいくらヤっても出来ない。
だからあの時アイツが
「10日前後ぐらい」
とか
「月末が多い」
とか曖昧でもいいから答えてくれてたら、オレもあんな無茶はしなかった。
その時だけ頑張ればよかったんだ。
――だけど、実際にアイツから返ってきた言葉は
「さぁ…?」
だった。
ストレスが体にすぐ影響する体質らしく、生理も数ヶ月に1回の時もあれば月に数回来ることもあるらしい―。
基礎体温の方も上下が激しく――正直な話、排卵日の目星は付けがたい、と―。
だからオレは
『こうなりゃ手当たり次第でいくしか―』
という危険な発想に行き着いたんだ。
その為にアイツをずいぶん苦しめちまった。
だけど明日からは違う。
しばらくはアイツにも休息の時間をあげたいからちゃんと避妊もするし、回数も抑えるつもりだ。
何事も初回が肝心。
明日は絶対ヘマは出来ねぇっ!
そしてついに月曜日。
12/24――世間はクリスマス・イヴ。
我が家に2週間ぶりにアキラと佐為が帰って来た。
「佐為〜、ここがオレらの家だぜ。結構いい所だろ?」
居間に置いたベビーベッドに佐為を寝かせた後、すぐに話しかけてみた。
「ここ端部屋だし、隣は空室だから思いっきり泣いても大丈夫だからなー」
「下にも上にも部屋があることを忘れるなよ?」
「あ、そっか。じゃあほどほどに泣いてくれよな」
そんなオレの様子を見て、横のソファに座ってコーヒーを飲んでいたアキラはクスクス笑っていた。
「んー、髪はオレの後ろ髪の色に似てるかな?」
「そうだね、綺麗な黒だよ。ちょっと青っぽいけど―」
幽霊の佐為の髪もこんな感じの色だったから、何だか嬉しいな―。
この子が佐為の生まれ変わりだったらいいのに…なんてな。
「そろそろお乳の時間かな」
「もうそんな時間?3時間って早過ぎだな。オマエ夜寝れないんじゃねぇのか?」
「まぁさすがに安眠は出来ないけどね。でも3時間あったら浅くは寝れるし、特に問題はないよ」
「ふーん」
アキラはマグカップを机の上に置いて立ち上がった後、佐為を抱き上げて、またソファに座った。
そしてセーターとブラを一緒に捲り上げて、佐為に母乳を飲まし始めた。
「……」
…やっぱり胸デカくなったよなぁ…。
Dカップぐらいあるんじゃねぇのか?
オレが抱いてた時はBぐらいだったのに―。
この短期間ですげぇな…。
「…何見てるんだ?」
またじっと胸を見つめているオレに気付いたアキラは、少し恥ずかしそうに聞いてきた。
「別にー。佐為、美味しそうに飲んでるなって感心してただけだよ」
「…キミも飲んでみる?」
「なっ…」
一気に真っ赤な顔になったオレの反応を見て、アキラは微かに笑った。
「冗談だよ」
…こいつオレをからかってんのか?
でもすぐに真顔に戻ったアキラは、少し困ったように眉間にシワを寄せて、佐為の顔を見ていた。
「…どうかした?」
「え?ううん…大したことじゃないんだ…。佐為、まだ少量しか飲まなくて―」
「まぁ…生後2週間だし。そんなすぐにたくさん飲めないだろ」
「うん…そうだね。これから…だよね」
「……?」
アキラ…?
時は夜。
そう、待ちに待った夜だ。
これからが夫婦の営みの時間だぜっ!
――のはずだったんだが、アキラはトイレに行ったきりかれこれ1時間は帰ってこない。
どうしたんだろう…。
腹の調子でも悪いのかな…?
心配になって様子を見に立ち上がった。
「アキラ〜?」
トイレは鍵が開いていて、中には誰もいなかった。
「あれ…?」
どこに行ったんだ…?と探しに行こうとしたら、台所の辺りから排水の音が聞こえた。
「アキラ…?」
「えっ?!」
明らかにオレの声にビクッとしたアキラは、急いで水道を止めた。
「なに…してんの?」
「べ、別に―」
赤い顔をして、パジャマのボタンを慌てて合わせている。
「教えてよ」
「た、大したしたことじゃない」
「大したことないんだったらいいじゃん…言って?」
アキラを背後から抱き締めて、合わせたボタンをまた外し始めた。
「ちょっ…ヒカルっ!」
「さっさと言えよ」
「それは……」
「言わないとキスマークの刑だからな」
「プッ…、何それ」
笑って誤魔化そうとしたアキラの首筋に吸い付いた。
「…っ、分かったっ!言うよ!言うからやめて!」
アキラは少しためらいながらも、ゆっくり話し始めた。
「その……出が良過ぎるんだ」
「出…?何の?」
「……母乳」
「…?いいことじゃん?」
何か問題でもあるのか?
「でも…佐為はあんまり飲まなくて―」
「あぁ…昼間もそんなこと言ってたな」
「だから…痛いんだよ。胸が張って…」
…なるほど。
つまり…需要と供給の問題か。
佐為が飲まない割にたくさん出るから、胸がパンパンで痛い、と―。
「だから…ちょっと出してたんだよ」
「え?捨てちまったのか?勿体ねェ」
「勿体ないって…他にどうしろと?」
「ふふふ〜」
意味ありげな笑い方をするオレを見て、アキラは危険を察したのか、急いでオレの手を解こうともがき始めた。
誰が離すかよ―。
「アキラ昼間オレに飲んでみる?って言ったよな〜♪」
「あ、あれは、冗談だっ!」
「いいじゃん、少し味見させて?栄養たっぷりなんだろ?オレまだ成長期だし〜」
「嫌だよっ!キミは肉でも魚でも食べてろ!」
「いいじゃん、ちょっとぐらい〜」
「ヤダってっ…―」
ゴネるアキラの口をキスで塞いだ―。
抵抗する力がなくなって―腰砕けになるまで―深く―貪っていく―。
「―…ぁ…はぁ…」
唇が離れると、アキラは崩れるようにオレの胸に寄り掛かってきた。
「…寝室に行こうぜ?」
「…ん」
アキラの肩を抱いて、頬や額にキスしながらゆっくり部屋まで招いた。
「3月…以来だよな?」
「……うん」
「あの頃はゴメンな…」
「……」
「もうあんな無茶はしない…大切にするから―」
「うん―」
承諾してくれたアキラの唇に再び重ねがらながら―体をゆっくり布団に倒した―
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