●TIME LIMIT〜18才編〜 2●
18歳の進藤の誕生日。
ライバルがタイトルホルダーになったその日―――僕は授位式には出なかった。
ただ悔しくて…自分の力が情けなくて、惨めで、どうしても公の場では祝いたくなかった。
その代わり、お花は送っておいた。
……匿名だけど。
「…そろそろ時間だ。美容院に行かないと」
授位式ももう終わるだろうという時間になって、僕はようやく重たい体を起こしてお風呂場へと向かった。
シャワーを浴びて、服をパーティー用のドレスに着替えて。
そして美容院に立ち寄り、髪の毛のセットとお化粧もしてもらった。
終わった頃にはちょうど夜中の11時で……僕は気持ちを入れ替えてタクシーでホテルへと向かう。
進藤の授位式が行われたそのホテルへ。
ライバルとして祝うのではなく、恋人として祝う為に―――
「今後の活躍も楽しみにしています」
「ありがとうございます」
式場に着くと、閉式はしていたものの、今だに進藤は挨拶周りで忙しそうだった。
誰にも見つからない所からコソッと彼にメールを送ってみる。
『今着いた。3階の大広間横のエスカレーター横にいる』
すると慌てて走ってきた。
「塔矢!ゴメン、まだちょっとかかりそう」
「…そう」
「先に行ってて」
ルームキーを渡され、耳元で3501だから…と囁かれる。
「帰るなよ?」
「…たぶんね」
「なるべく早く行くから」
頬にキスだけして、また忙しそうに会場へと帰っていった。
チラッと腕時計を見ると―――0時1分。
恋人の時間の始まりだ―――
「すごいな…」
3501号室はスイートルームだった。
毎年豪華な部屋を用意してくれるけど…今回も格別。
無駄に広い部屋な上に無駄に綺麗な夜景で、一人ぼっちでいると少し悲しい。
ベッドルームにも大きなベッド。
今年はこのベッドで進藤と過ごすのか…と想像すると少し顔が熱くなってきた。
去年・一昨年に引き続き三回目の恋人の一日。
男の人と体を合わせるのも三回目。
進藤しか知らないこの体。
一体いつまで僕は彼にこんなプレゼントをあげるのだろう…。
一体今夜はどんな感じに抱かれるのだろう……
「塔矢!お待たせっ」
1時を少し過ぎた頃―――バンッと勢いよくドアを開けて、進藤が部屋に帰ってきた。
手には花束。
………あれ?
「その花……」
「匿名さんからだって。これだけは貰ってきたんだ〜。ありがとな、塔矢」
「…どうして僕からだと分かった?」
「なんとなく」
「…そう」
どうしてバレたんだろう…。
進藤がご機嫌にその花束を花瓶に生け、ベッド横のサイドデスクに飾った。
「…あの、遅くなったけど……おめでとう」
「タイトルが?誕生日が?」
「両方だけど…特にタイトルが。羨ましいよ…さすが進藤…」
「無理して言わなくていいって」
「………」
「それより、誕生日を祝ってよ」
ベッドに腰掛けた進藤が、僕にもそっちに来るよう手招きしてくる。
恐る恐る…彼の胸の中に収まった。
「すげぇ…嬉しい。一年ぶりの塔矢だ…」
「…タイトルより嬉しそうだな」
「タイトルも嬉しかったよ。でも…天元だったし。オレの目標は本因坊だから」
「…そう」
抱きしめていた手が背中のチャックに移り…ファスナーを下ろされていく。
パサッと床に落ちたドレスの下は下着のみ。
下着の上から胸に顔を埋められた。
「塔矢……好きだ」
「………」
「オマエも好きって言ってよ…。恋人だろ?」
「そうだね…今はキミの恋人だ」
「オレのこと…好き?」
「…好きだよ」
進藤が本当に求めているのは単なる僕の体じゃない。
僕の心が欲しいんだ―――
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