●TIME LIMIT〜18才編〜 1●
「千明、どの花がいい?」
「ピンク〜」
娘が保育所に行き始めた春―――オレはその千明を連れて、街中のとある花屋に来ていた。
千明の選んだ大きな花に、オレが少し補助的な花を付け足して。
店員さんのアドバイスも参考にすると、見事に立派な花束に完成した。
「えっと…これ送ってもらってもいいですか?」
「はい。こちらにご記入お願いします」
贈り先は都内某ホテル。
塔矢アキラ新碁聖へ―――
先日、塔矢が史上初女性で七大タイトルを奪取したことは、囲碁界を越えて日本的大ニュースとなった。
明日その授位式が都内のホテルで行われる。
この花束はオレと娘からのお祝い。
もちろん匿名で送るし、当日はもっとすごいたくさんの花が届くだろうから、彼女の目にも止まらないかもしれない。
…でももしかしたら気付いてくれるかも?
だってあの時オマエがくれた花もそうだったから―――
「あーーくそっ!なんで授位式がよりにもよってオレの誕生日なんだよ!」
「いいじゃないか。記念すべき18歳の誕生日が二倍おめでたくて」
「どうせ挨拶と取材ばっかさせられるんだろ?その時間で一体オマエと何回出来るか―――うぐ」
塔矢に慌てて口を塞がれてしまった。
囲碁サロンの他の奴らに聞かれてないか、彼女が周りをキョロキョロ見渡す。
16歳の誕生日以来、オレは塔矢に『恋人』のプレゼントを貰っていた。
もちろん今年も貰うつもりだ。
なのに、それなのに、よりによって授位式と重なっちまうなんて…!
絶対日付の変更は不可能。
絶対一日丸々潰れる。
くそっ!
くそくそくそっ!
「…全く。キミはタイトルと誕生日の一体どちらが大事なんだ?」
「誕生日」
「…最年少タイトルホルダーになるんだぞ?」
「どうでもいい。オレにとってはオマエとデートする方が百倍大事だし」
「……はぁ」
塔矢が呆れの溜め息をついた。
…分かってるよ。
オレだって自分が成し遂げたことのすごさぐらい分かってる。
どんなに欲しくても、全く手の届かない人だっていっぱいいる。
この塔矢アキラでさえその一人だ。
―――でも
オレはこの一年…誕生日の為だけに頑張ってきたんだ。
誕生日しか塔矢と恋人になることが出来ないんだ。
それなのに…それなのに、こんな意地悪しなくてもいいじゃん!!
「……分かった。今年は一日ずらそう」
「え?」
「21日でいい?キミと恋人になる日は」
「塔矢ぁ…」
「今年だけだからな」
「うん!ありがとう塔矢!」
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