●W VIRGIN●


〜ヒカル視点〜



「今までどんな女の子と付き合ったことあるんだ?」


遠回しに女性遍歴を聞かれたオレは、少し考えるそぶりを彼女に見せた。

過去を振り返ってるわけじゃない。

付き合った女の数を数えてるわけでもない。

ただ単に、答えに困っただけだ。


「…なんで、んなこと聞くんだよ?」

「興味あるから」

「…もう忘れた。いちいち覚えてない…昔の奴のことなんか」

「ふぅん…」


嘘ついた。

100%見栄。

本当のことなんか…恥ずかしくて言えない。


「…そういうオマエは?」

「…キミよりは少ないかな」

「…へぇ」


思ってもなかった返事にズキッと胸が痛んだ。

ショックだ。

塔矢にそんな相手がいたなんて、聞いたことも見たこともなかったのに…。

そりゃ…気がついたらオレらももう24。

過去に恋愛の一つや二つ、経験してても全然不思議じゃない歳だ。



でも――オレは碁一筋だった。


他のことなんか目も向けず、寄り道なんかせず、ひたすら囲碁のことばっか考えてた。

塔矢も同じだと思ってたのに……


「…今まで付き合った女の子より、僕の方が碁が強い?」

「当たり前だろ。オレより強いくせに…」

「僕の方が可愛い?美人?」

「は…?」


なに聞いてんだ…コイツ。


「僕のこと…どう思ってる?」

「どうって……」


…ライバル?

と正直に答えようと思ったが、やめた。

塔矢がどんな答えを望んでるのか…分かった気がしたから。

そしてその答えを言えば――コイツを手に入れられると思ったから。


「…好きだよ」

「本当?」

「ああ」

「僕も…――」


この瞬間――オレは人生で初めて彼女というものが出来た。

その相手が塔矢だってことにも文句はなかった。

文句ないどころか嬉しい。

だって、この天下の塔矢アキラがオレのものになったんだぜ?

すげー


でも……オレはさっきコイツに嘘をついた。

女性遍歴。

見栄であたかも経験豊富かのように言ってしまった。

本当は…本当は本当は、まだ童貞だなんて恥ずかしくて死んでも言えない……



「今日、泊まってもいい?」

「……いいけど」


死んでも言えない…けど、いざエッチしたらバレるかもしれない。

やっと童貞を捨てれるってことにウキウキしながらも…内心ヒヤヒヤ。

慣れてるように振る舞うのは超ハードルが高い。

そりゃ、それなりにDVDとか見てるから…知識はある、と思う。

でも知識はあっても実践したことはないから……あああどうなるんだろオレ…。



「塔矢…」

「――…ん……」


とりあえず、ベッドに移動して…彼女にキスをしてみた。

はい、もちろんキスも初めてです、すみません。

でも謝ってる場合じゃない。

そっと舌も入れてみる……


「んっ…ん……っ」


何か…すっげー気持ちいいんだけど、本当にこれであってるのかなぁ?

塔矢の反応は…まぁそこそこ悪くない気もするけど…。


「―…はぁ…は…あ…」


口を離した後、ベッドに彼女を倒してみた。

じっとオレを見てくる。


「…なんだよ?」

「なにが…?」

「なんか言いたそうじゃん?」

「…別に」


ぷいっと赤い顔を横に向けた。

よく見たら…塔矢、ちょっと震えてる?

寒い?

いやいや、エアコンききすぎて暑いぐらいだし。

塔矢は…経験あるみたいなこと、さっき言ってた。

なら、怖くて震えてるなんてこと…ないよなぁ?


「あの…進藤」

「なに?」

「その……優しくして…ね?」

「……分かってるって」


本当は分かってないのに、口が勝手に格好つけた。

優しくって、なんだよ??

ゆっくりってことか?

丁寧って意味か?

うわ〜〜〜分かんねぇ!!

どうなるんだオレ???







********************


〜アキラ視点〜



ずっと進藤が好きだった。

今日は彼の部屋でこの前の対局の検討。

つまり…二人きり。

思い切って告白しようと思った。

でも何故か出た言葉は


「今までどんな女の子と付き合ったことがあるんだ?」


というとんちんかんな質問。

何を聞いてるんだ僕は!!

ほら、進藤困ってるじゃないか!

進藤にこんな質問するなんて馬鹿げてる。

意味がない。

だって彼は僕と一緒で、ずっと囲碁漬けだったんだから―――

でも、彼の口から出た真実は――僕の頭を真っ白にさせた。


「…そういうオマエは?」


僕?

僕は……


「…キミよりかは少ないかな」

「…へぇ」


彼の女性経験が豊富だったことのショックで、ありもしないことをつい口にしてしまった。

だって…悔しいじゃないか!

僕は碁ばかりだったのに、キミは違ってたなんて。

悔しい。

他の女の子にキミを取られてたってことも許せない。

一体どんな女の子と付き合ってたんだ?!

僕より可愛いの?美人なの?強いの?

ううん、そんなことより、キミは僕のことをどう思ってるの??


「…好きだよ」

「本当?」

「ああ」

「僕も…――」


嬉しい。

嬉しい嬉しい嬉しい!

キミが僕のものになった。

ううん、まだだ。

口約束だけじゃなくて…もっと先。

キミと結ばれて…本当の恋人にならなくちゃ―――



「―……ん…」


進藤にベッドに押し倒された僕は、正直緊張で固まっていた。

さっき…僕はありもしない男性経験を彼に言ってしまった。

いかにも経験がある…みたいに。

言ってしまった嘘は…つき通した方がいいのだろうか?

で、できるかな…?


「……ぁ…」


進藤に服を脱がされた。

もう恥ずかしくて恥ずかしくて……部屋の電気を消してしまいたい。

でも、きっと経験のある子は明るくても平気なんだ。

だから進藤も消さないんだろう。

我慢我慢我慢…


「えっと……」


進藤がブラのホックを外したいのか…背中に手を回してきた。

場所…分かるのかな?

分かるよね?

今までどうせ何回も外してきたんだろう??


…でも、結局よく分からなかったのか、僕を俯せにしてきた。

胸は隠れるから…まぁいいけど、今度は彼の動きが見えないからちょっと焦る。


「…きゃ…っ」


後ろから手を回して揉んできた。

そして生温かいものが背中に這う。

やだ…やだやだやだ、何?舌?

どこを舐めてるの??

真っ青になってると、進藤が

「…気持ち悪い?」

と聞いてきた。

気持ち悪いし…こそばゆいし……

でも、慣れてる子にはきっとこれが気持ちいいことなんだろう。

だから彼もするんだろう。


「…ううん。全然、気持ちいい」

あれ?変な日本語?

「…前も舐めてもいい?」

「い…いいよ。もちろん」


再び仰向けになると、進藤の表情が丸見えで…ちょっと恥ずかしかった。

顔…赤い。

遠慮気味に…彼の口が僕の胸を舐めだした。


「……っ」

「ご、ごめん…痛かった?」

「少し…だけ」


あれ?

進藤ちょっと焦ってる?

なんで…?


「……ぁ…」


もう一度、今度は優しく乳首に触れてきた唇は、乳房や胸の谷間に徐々に移動していった。

胸の次はお腹、おへそ。

あ…あ…、一体どこまで下に行くつもりなんだろう。

下腹まで来たところでその口が僕の肌から離れた。


「きゃ…っ」

と思ったら、次はショーツの上から大事なところを触られて、思わずビクリ。

やだ…やだやだやだ。

どこ触ってるの??


「ぁ……」


そして最後の一枚も脱がされて、僕は丸裸にされた。

進藤の方も脱いでくる。

初めて見る男の人の体に、僕の鼓動は益々早くなった。

意外と筋肉質で引き締まってて……綺麗な体だ。

唯一脱いでないトランクスの中央部分が盛り上がっていて、恥ずかしさで目を逸らしてしまった。

男の人は興奮したらアソコが大きくなるって、聞いたことはあったけど……これがそうなんだ?

でも、ちょっと、大き過ぎじゃないか…?

本当にこんなの、僕の中に入るのかな……


「ぁ…んっ、あっ…あぁ…っ」


脚を広げられて、彼の手が執拗に僕の下半身を擦ってきた。

なにこれ…、信じられないくらい気持ちいい…。

でも指が中に入ってくると、ちょっと痛くて……歯を食いしばる。

怖い…。

怖い怖い、怖すぎる。

もうやめて!離して!

でも、離さないで――


「塔矢…?」


進藤の体にぎゅっと抱き着いた―――

進藤が好き。

ずっと大好きだった。

怖いけと……進藤だから我慢出来る。

痛くても一つになりたいと思う。



「塔矢……いい?」

「……うん」


耳元でそう囁かれて、僕は頷いた。

さっきよりも大きく脚を広げられて、彼がその場所に当ててくる。

ゴム、とか、付けないのかな…って一瞬思ったけど、口に出せなかった。


「――…んっ」


少しずつ入ってきたそれは、僕の下半身を貫いていく。

痛くて痛くて痛くて……声も出なくなる。


「…き…つ…」


進藤も苦しそうだった。

きつい?

それってもしかして僕が初めてのせい?

処女だってバレた…?


「は……気持ちい…」


次は気持ちいいだって?

ずるい。

僕は痛いだけなのに。

僕も回数を重ねると気持ち良くなるのだろうか……


「塔矢も…気持ちいい?」

「……痛…い」

「え?!ごめんっ…オレっ」


焦った進藤が慌てて腰を引いてきた。

せっかく奥まで入っていたものがズルリと抜ける。


「は…ぅ」

「あ…オマエ、血が出てる」

「え…?」


見ると、シーツに赤い染みが付いていた。

僕が初めてだという決定的な証拠。

恐る恐る進藤の顔を見ると、なぜか彼の顔は真っ青だった。


「ごめん塔矢。オレ初めてでよく分かんなくて…、オマエの中傷付けたかも」

「え?違うよ、これは僕が初めてだったからであって…」



―――え…?




********************


〜ヒカル視点〜



初めてだったから……だって?

思ってもなかったお互いの言葉に、オレらは固まってしまった。


「キミ、今、初めてって…言った?」

「う、うん、ごめん…。本当はオレさ…今まで誰とも付き合ったことなくて。当たり前だけどエッチもしたことないっていうか…」

「そ、そうだったんだ…」


恥ずかしさに顔がありえないくらい赤くなる。


「オマエ…も?」

「うん…ごめん。キミがあんなこと言うから僕も見栄張っちゃって…」

「そ、そっか…はは。何だ…」

「はは…」

「ははは…」


お互いしばらく笑ってしまった。

なーんだ、そうだったんだ。

やっぱり、そうだったんだ。

塔矢、初めてだったんだ。

そっか、そっか。

信じられないくらい嬉しかった。


笑いが落ち着いた後、改めてオレは塔矢を押し倒してみた。


「痛かったらすぐ言えよな?少しずつ入れるから」

「うん」

「あと…ごめん。ゴム付けれなくて。オレ持ってなくて…。次までに買っておくから」

「うん――」


次までってことは、次ももちろんあるってこと。

もう嘘なんかつかずに飾らずに。

ありのままの、今のオレらが出来るエッチをしてみることにした。


「―…ぁ…っ、ぁ…んっ、あぁ…っ」

「は…っ、塔…矢…っ」

「し…んど…う」


でも、今の方がさっきより断然塔矢の感じ方も濡れ方もいい感じだった。

オレの方はありえないくらい気持ち良すぎて…もう駄目で、やばいと思った瞬間には中で溢れさせてしまっていた。


「ご、ごめん。抜く暇なかった…」

「ん…いいよ。でも、もし出来たら責任取ってね…?」

「もちろん!当たり前だろ!」


躊躇うことなくオレが返事を出来たのは、もちろん相手が塔矢だったからだ。

塔矢となら、そうなってもいいと思った。

いや、なりたいと思った。


「好きだ…」


もう偽りのない気持ちを、オレは言葉と体で一晩中訴え続けた―――









―END―








以上、お互い初めてであることを隠すお話でした〜(笑)
最近ヒカアキのリアルタイム年齢が上がってきて、初めて同士のネタが書きにくくなってしまいました><
アキラは結婚まで処女を貫きそうなのであり得るかもしれませんが、ヒカルがこの歳まで未経験…って。
どんだけ囲碁に人生捧げてたんでしょうね〜(笑)
ま、これからアキラさんと一緒に上達していって下さいなってことで〜(逃)