●WANT CHILD 5●


何かの雑誌で読んだことがある。

子供が出来たら仕事を辞めてしまう女性は70%を越すんだって。

残りの30%の中でも、正社員として働き続ける人はほんの10%。

つまり1000人いたらたった30人しか仕事を続けないってことだ―。

それほど大変な子育てを、器用じゃないし…身勝手だし…自分のことしか考えてない僕が出来ると思う?

その30人に入れると思う?

無理だよ…。

家族を不幸にすることが目に見えてる…。

だけど残りの970人と同じように仕事をやめて子育てに専念するなんて御免だ。

確かに棋士は続けようと思えば一生続けていける職業。

長期休暇だって子育ての為なら簡単に取れる。

だけどね、僕は今が一番脂ののってる時期だと思うんだ。

今少しでも寄り道をすると、もう元の位置には戻れない気がする。

僕は上に行きたいんだ。

今の勢いを利用して、一気に上まで上り詰めたい―。



……そう思ってた……



だけどそれで本当にいいの…?

子供を殺してまで…それが僕のしたいことなのか…?

せっかく大好きなキミとの子供なのに―。

家族を不幸にする?

産んであげれない方が不幸じゃないのか?

少なくともその時点で進藤は不幸になる。

あんなに優しいキミなのに…。

僕の為なら大好きな子供でさえ諦めてくれるキミなのに―。

そんなキミの子供を産んであげれない僕も……不幸だ―。





「ん…――」

目が覚めたら進藤のベッドで横になっていた。

彼の姿はない。

寝室を出て、リビングの方に行くと――机の上に書き置きがあった。


『棋院まで指導碁に行ってくる。昼までには帰るから、そのあと一緒に病院に行こう。 進藤』


「……病院か」

進藤はもう覚悟は出来ているんだろう。

昨夜キミは一晩かけてお腹の子にお別れをした。

キミの涙を見たのは久しぶりだったな…。

僕は今までキミの悔し涙しか見たことがない…。

昨日のもそうだったの…?

ごめんね…。


ねぇ…進藤。

こんな僕が母親になって、子供は幸せになれると思う…?

キミの言う最高の母親に本当になれると思う…?

そんなの母親になってみなくちゃ分かんない…か。

大丈夫だよね…?

だって僕にはキミがついてる。

僕にとって最高の恋人であり、夫になるキミが――。


そう思った瞬間――僕は立ち上がった―。







ガチャ


「塔矢ただいまー」

「お帰り〜」


進藤は書き置き通り、11時過ぎに帰ってきた。

リビングに入ってきた彼は机の上のものに目を見開く―。

「なにその大量の本…。そんなに退屈だった?」

「僕の辞書に退屈なんて文字はないよ。勉強してるんだ」

「へー…ってこれ全部赤ちゃん関係の本じゃんっ」

「そうだよ」

「そうだよって……え?あれ?オマエ今から病院行くんだろ…?」

「行くよ」

「じゃあ…こんなの必要ないじゃん。まさか…中絶の勉強?」

予想外の展開に少し動揺している進藤を睨み付けた。

「バカか?キミは。この本のどこが中絶の本に見えるんだ。全部出産関係だっ」

「…てことは―」

「産むってこと!やっぱり気が変わったんだっ!」

彼の目が大きく見開く―。

「本当にいいのか…?だってオマエ碁が…」

「いいんだっ!」

「でも…」

腑に落ちないという顔をした彼の顔を更に睨み付ける―。

「何だキミはっ!僕が産むって言ってるのに嬉しくないのか?!」

「嬉しいに決まってんだろっ!」

後ろからぎゅっと抱き締めて、髪に唇を押し当ててきた―。

「ありがとう塔矢…。すげー嬉しい。嬉しすぎて倒れそうなぐらい―」

そっと軽く、何度も頬にもキスしてくる―。

抱き締めてる手は歓喜に震えてるみたいだった。


「…倒れてる暇はないよ、進藤。今から病院に行こう」

「え?何で?もう行く必要ないんじゃ…」

「先生に産むことにしたって報告しなくちゃいけないだろう?」

「あ、そっか」


――そして僕らは仲良く手を繋いで病院に行った。

帰りに僕らの実家にも寄って報告。

それだけならよかったんだけど…進藤が嬉しさあまり友達にも言いまくってしまったので、その噂はあっという間に囲碁界中に広がってしまったのだった。


一ヶ月後の結婚式の時には幸いまだお腹は目立っておらず、僕は満足のいくウェディングドレス姿を披露出来た。

そして更に半年後にお腹の子は無事に産まれ、僕らはしばらく子育てに追われる日々を送るんだけど…

分かったのは進藤は子供を溺愛しすぎて叱れない奴だったってことだ。

親としては最悪だぞ、それはっ!

まぁその分僕が思いっきり叱るし、進藤も言う時はちゃんと言ってくれるので何とか初めての子育ては上手くいきつつある。

囲碁の方も両親の協力のおかげで思ったよりも早く復帰でき、数ヶ月で休む前の状態にまで戻すことが出来た。

世の中なんとかなるものだな。

こんな結果になるんだったら、あんなに悩むんじゃなかったよ…。











―END―












以上、子供話でした〜。
結局妥協したのはアキラの方でしたね(笑)
今回はFEMALEシリーズみたくいきなり!な感じではなく、順を追ってみよう!と書き始めました〜。
ちゃんと交際→プロポーズ→結婚→子供ってな具合に。
プロポーズした後に妊娠した場合は俗に言う「できちゃった結婚」には入りませんよね?ね?(汗)
しかも今回は交際期間は5年!すばらしいですヒカル君。やれば出来るじゃん!
この話のヒカルはうちのヒカルには珍しいホワイトタイプかと〜(笑)
アキラはいつも通りですが…。

でも女性の仕事と家庭の両立……難しい問題だと思います。
私の従姉達も、みんな仕事を辞めて家庭に入っちゃってます…。
まぁ田舎ですからね。
都会はどうなのかしら?
同じなのかしら?
でもパートとかならともかく、正社員で産休まで取ってずっと仕事を続けていくのは実際には難しいかと…。
外国では普通なのにね。
日本はまだまだそういう面では遅れてます。