●VS AKARI●





僕と進藤はいわゆる友達以上恋人未満という関係だ。

正式には付き合ってないけれど、お互い意識しあってるのは自他共に認めて一目瞭然で。

どちらかが話を切り出せばすぐにでも僕らは恋人同士になれるだろう。



……が、今年の冬ちょっとした事件が起きる。

進藤の幼なじみである藤崎あかりさんが、棋院で事務として働くことになったんだ―――










「ちょっと、誰よあの女!進藤プロとあんなに仲良さそうに」

「ほら、この前事務で採用された藤崎さんよ。なんでも進藤君と幼なじみらしいわよ」

「幼なじみ??まさか彼女とか言わないでしょうね」

「違うわよ。だって進藤さんには塔矢さんが―――あ」


僕が通りかかったので、女流の人達は話を止めた。

「塔矢さん、負けちゃだめよ」

とだけ言って、そそくさと立ち去っていく。

負けるなと言われても、相手はあの藤崎さんだし…と怯んでしまう。




「あ、塔矢」

僕に気付いた進藤が手を振ってきた。

「オマエもスケジュール調整?」

「ああ。来月どうしても外せない用事が出来てしまってね…」

「ふーん。…あ、こいつオレの幼なじみの藤崎あかり。塔矢は知ってたっけ?」


まるで自分の彼女を友達に紹介するかのように、寄り添って、手を腰になんか回しちゃって、少し恥ずかしそうにも嬉しそうにも見える笑顔で紹介してきた。

僕には絶対真似出来ない可愛い笑顔を彼女も向けてくる。


「…知ってるよ。キミがよく高校や大学に足を運んで指導碁していた子だろう?」

「おーそれそれ。でも指導碁してたのは他の部員だけどな。あかりに頼まれてあの頃はよく行ってたな〜」


あかり……呼び捨てだ。


「うん。あの頃は本当に ありがとう。ヒカルが来てくれて皆すっごく喜んでた」


ヒカル……こっちも呼び捨て。

幼なじみだから当たり前なのかもしれないけど、苗字やオマエとかでしか僕のことは呼んでくれないから、ちょっと羨ましかった。


「そういえば今度筒井さんや金子さん達と集まるつもりなんだ。三谷君も来るって。ヒカルも来れない?」

「マジ?いつ?」

「12月14日」



………!

僕の誕生日だ。



「14日かぁ。それって昼間?オレ夜は用事あるんだよなー」

「ずっと通しだから、時間になったら帰ってもいいよ?」

「じゃあそうする」


僕の誕生日なんか知るよしもない進藤は、当然昼も夜も予定を入れてしまう。

少し…胸が痛んだ。

その後もひたすら楽しそうに話す彼らを見ていると何だか無性に居づらくて、僕は直ぐさまその場を立ち去った。

進藤の…バカ。











「藤崎さんを事務に推薦したの進藤さんなんですって」

「棋院の事務って棋力も条件にあるからなかなか見つからないものねー」

「それにしても、いくら幼なじみとはいえ仲良すぎじゃない?」

「本当よね。最近いつ見ても一緒にいる気がするわ」


彼女と進藤の時間が増えた分、僕と進藤の距離が広がってしまった気がする。

もともとお互いハードスケジュールですれ違いが多い僕ら。

碁会所で待ち合わせて打つことで辛うじて保っていた二人の時間も、藤崎さんが事務に来てからは一度もない。

もしかしてこのまま進藤は彼女と上手くいってしまうのだろうか。

僕のことなんか忘れて…――




「……はぁ」

「アキラどうした?」

「芦原さん…」

「進藤君の二股が原因か?」


は…?


「違うのか?皆言ってるよ?進藤君がアキラと新しい事務の女の子を二股かけてるって」

「べ、別に僕は…進藤と付き合ってるわけでもないし…」

「付き合ってなくても、お前ら両想いなんだろ?立派な二股だって」

「……」

「俺がアキラの代わりに進藤君に文句言ってきてやろうか?」

「やめてください…」

「じゃあ自分でなんとかしろよ?」

「………」

「諦めるなよ?進藤君のこと、好きなんだろ?」


好き……うん、僕は進藤のことが好きだ。

でも…進藤は?

進藤に好きだなんて言われたことないし。

僕の勘違いだったのかもしれない…と思い始めてきた。

付き合ってないから、当然僕に彼を束縛する権利も独占する権利もない。

彼が藤崎さんに心変わりしても仕方のないことなんだ。


じゃあ僕の方から告白してみる?

無理だよ。

もし断られたら…立ち直れない。

きっと友達にも戻れない。

告白は彼を手に入れるか、失うかの二択なんだ。

藤崎さんが棋院に来るまではこんなにも告白が恐いものだとは思ってなかった。

自信があったから。

でも今は……











「塔矢さん!」


憂鬱なまま迎えた誕生日。

棋院に行くと、なぜか藤崎さんに会った。


「…今日は進藤達と集まるとか言ってなかった?なんで…」

「これから行くところなの。ちょっと忘れ物を取りに来て…」

「ふーん…」

「でもまだ時間あるんだ…」


…だから?

僕と話したいと?

いいよ、こうなったらヤケだ。

進藤との惚気話でも思い出話でも何でも聞いてあげる。



「ホットを二つで」

棋院を出て、近くの喫茶店に入った。

注文し終わった後、改めて彼女の顔を見ると……本当に可愛い顔をした子だな…と思う。

今日の私服もすごく女の子っぽくて…僕には絶対似合わない。

進藤にはこういう子の方が似合ってるよね……


「塔矢さん…綺麗になったね」

「…は?」

「私ね、棋院で塔矢さんに再会した時嬉しかったの。すっごく綺麗になってて…そりゃ私なんかにヒカルが見向きもしてくれないはずだよ…って納得した」



は……?



「ヒカルとはいつ付き合うの?」

「え?は…?ちょっと言ってることが理解出来ないんだけど…?」

藤崎さんがふふっと可愛く笑ってきた。

「ヒカルが塔矢さんのこと好きなのは気付いてる?」

「え…?」

「ヒカル…ずっと前から塔矢さんのこと好きなんだよ。まだ付き合ってないってヒカルから聞いてビックリしちゃった」

「あの…それより藤崎さんは進藤のこと好きじゃないんですか?」

「もう何年前になるかな…。高校の時告白して…私フラれてるの。塔矢さんのことが好きだからって」



進藤……



「でもまだ告白してないって言うんだもん。本当ビックリ。何してんのよヒカル」

「……」

「今日…塔矢さんの誕生日なんでしょ?おめでとう」

「え?あ…ありがとう」

「ヒカル…この前、今日の夜は空いてないって言ってたでしょう?今夜、塔矢さんに今度こそ告白するんだって言ってたよ」



え……?



「でもすごく恐がってた。フラれたらどうしよう、もう一緒に気軽に打ったり出来なくなるかもって。馬鹿だよねー」


キミも…同じ気持ちだったんだね。

嬉しいよ。


「だから、先に私が塔矢さんの気持ちを聞いておいてあげるわよ!って言っちゃったの。だからさっき棋院で待ち伏せしてたんだ。忘れ物なんて本当は嘘なの」

「え…」

「で、どうなの?塔矢さん…ヒカルのことどう思ってるの?好き?それともただのライバル?」

「……」

「ただのライバルだって言ったら、ヒカル貰っちゃうからね」

「藤崎さん…」

「ふふ」




――好きだよ――




彼女に、僕の気持ちをそう伝えた。

きっとそれを聞いた進藤は、慌てて僕のところに来るだろう。



指導碁を終えて棋院から出ると――予想通り進藤が待っていた。


「塔矢っ!!」

といきなり抱き着かれる。


「…全く、何が恐いだ。キミが早く告白してくれないから、余計な心配しちゃったじゃないか…」

「ごめんなぁ…。ずっと好きだったんだ…言えなくてごめん」

「でも僕も…恐かったから言えなかった。キミを失いたくなかったから…」

「お互い様だな」

「そうだね」


クスッと笑いあった僕らはそのまま唇を重ねた――



今日は僕の誕生日。

僕を不安にさせた分、今日は思いっきり祝ってもらおう。

え?キミの部屋で?

帰さないって?



いいよ―――僕も帰らない











―END―











以上、対あかり話でした〜。
でもあかりちゃんはとっくの昔にヒカルにフラれてるみたいです(笑)
それでも幼馴染の関係が続いてるって素敵ですよね。
たぶんあかりちゃんはもう他に好きな人がいるんじゃないかな?
だからヒカルの恋愛相談にも乗ってあげれるんです。
おかげでアキラさんは余計な心配をしてしまいましたが、これからはあかりちゃんとも仲良く出来るんじゃないかな〜と思います(^▽^)