●VIEW 5●


「塔矢、夜景どんな感じ?」

「うん…すごく綺麗だよ…」

その晩は母に部屋番号を教えてしまったので、約束していたお風呂も別々に入ることにした。

ドアの前で進藤が腰を降ろして、僕に聞こえるように話してくれた。

「…もし上手くいったらさ、これからはずっと一緒だな」

「…うん」

「オレ、明日家に帰ったら即効親に頼んでみる…。許してもらえるまで頑張るから」

「僕も…頑張るよ」

外の夜景を見ずに、すりガラスの向こうに映った進藤の背中ばかり見ていた。

キミと…もっと一緒に居られますように―



次の日、朝8時にはチェックアウトし、お互いの家に戻った。

僕は午後には予定通り名古屋に向かい、対局に備えることとなる。



一週間後――

棋院近くのカフェで進藤と会うことになった。

「塔矢!こっち!」

「進藤、久しぶりだね」

「うん」

適当に飲み物を注文し、早速本題に入る。

「オレん家は電話で話した通り…。何か案外あっさりいってビックリしたぜ…」

「僕の方も…」

進藤の両親は進藤が一人暮らしをするのには反対だったけど、僕が一緒ということで返って許してくれたらしい。

「オマエって外面いいもんなぁ…」

「感謝してくれよ?」

笑いながら進藤がハイハイと言った。

ちなみに僕の方はというと、あの後お母さんが僕と会ったということをお父さんに話したのは、意外にも帰宅してからだったらしい。


「アキラはまだ帰ってないのかね?」

「あぁ、そういえば今日は泊まりで進藤さんと打つって言ってましたわ。さっきホテルのロビーで偶然会いましたの」

「そうか…。アキラはずいぶん進藤君が気に入ってるようだね」

「えぇ、アキラさんが進藤さんの話をする時はそれはもう嬉しそうに…。まぁ内容は愚痴ばかりですけど…」

「はは…」

「そのうち泊まるのが面倒だから一緒に住む、とか言い出しそうですわね」

「そうだな」


という具合に。

で、その次の日の朝、帰ってきた僕がいきなり進藤と暮らしたいって言ったもんだから、大爆笑されたのは言うまでもない。

もちろん反対はされなかった。

理由もライバルと住むことで向上心を高めたいとか色々言ったからだ。


「こんなことになるなら、さっさとそうすれば良かったぜ…」

進藤がぼやきながらコーヒーを飲んだ。

「そうだね…」

こんなにすんなり上手くいくとは思ってたなかった―。

進藤がコーヒーを横に除けて、パンフやら書類を取り出した。

「でさ、早速色々不動産とか回ってみたんだけど、ここなんか良くねぇ?」

「マンション…?」

「そ。賃貸でもローンでもどっちでも大丈夫なんだって。オマエ景色のいいとこ好きじゃん?ここならまだ上の方の階空いてるっていうし」

「へぇ…」

早速渡されたパンフを見てみる。

「結構新築…?」

「うん、この2月に出来たばかり。立地もオマエん家とオレん家と棋院のちょうど真ん中ぐらいなんだぜ。駅からも近いし」

へぇ…確かに立地は最高だ。

駅から近いと言っても主要な駅じゃないから、周りは住宅街で静かそうだし…。

「…でも3LDKもいる?」

「えー、いるだろ。寝室とオマエの部屋とオレの部屋。やっぱ別れて勉強したい時もあるだろ?」

「寝室は一緒なんだ…?」

「当然。それだけは譲らねぇ」

「……」

別に僕はいいんだけどね、訪ねて来た人にダブルベッドしかなかったら変に思われるような…。

やっぱり部屋は一緒でもいいから、ベッドは別けてもらおう…。


「でも27階で3LDKって…一体いくらするんだ?」

このパンフによるとスカイラウンジにフィットネスクラブ、トランクルーム、ゲストルームにプールまで…ずいぶん付属施設が多いみたいだ。

明らかに高級な高層マンションなんだけど―。

「その部屋は月34万だって。プラス礼金・敷金・管理費とか色々いるけど」

「34万?!高過ぎじゃないか?!」

「えー、でも二人で割ったら17万じゃん?十分収入に見合ってると思うけど…」

そうかな…。

でもそれ以前に僕らまだ17歳なんだけど…。

契約も親同伴じゃないと出来ないのに―。


「…ちなみに買ったらいくら位?」

「確か6500万ちょっとって言ってたかな」

「ろっ…」

ありえない数字だ。

名人と本因坊のタイトル2つぐらい取らないと―。

買うのはまだ早すぎる。

「…やっぱり家賃の方でいこう…」

「了解♪んじゃ後で現物見に行こうな」

「うん―」


何だかバタバタといきなり決まって多少の戸惑いはあるけど、これから本当に進藤と暮らせるのかと思うと胸が弾む―

朝から晩までずっと一緒―

碁も打ち放題―

愛も育み放題―

すごく楽しみだ―



そんな僕らの同居生活が始まる――






―END―







以上、ずっと書きたかったホテル話でしたー。
後半変になりましたが…。
何かね、2を書き上げた時点で、こいつらってこれからご飯食べて、またヤって、それで終わりか?!
…と思った瞬間書く気がなくなり、どうせなら誰かとハチ合わせたろう…と、どこからか悪魔の囁きが聞こえたのです。
んで、こんな感じに。
最初は緒方さんで書いてたんですが、案の定すぐにヒカルとのことがバレて、アキラが話の途中で逃走、追いかけてきたヒカルと大喧嘩を始めてしまったので、これはまずいな…と明子さんに変更しました。
そしたらヒカルが暮らそうとか言いだして、結果こんなことに…。
ホテル話じゃなくてマンション話ですよこれじゃあ…(=_=)
ということで次は…同居話ですかね?
でも同居同居言ってたらヒカルに

「同居じゃねーし、同棲だし!」

って怒られそうですね…。

じゃあ次は同棲話ということで〜。