●USO●




26歳にもなった今年の4月1日――エイプリルフール。

僕にはどうしても吐かなければならない嘘があった。




その日、僕は進藤といつものように囲碁サロンで打っていた。

そしていつものように、彼がくだらない話を始めたのだ。



「そういえば雑誌に書いてあったんだけどさー」

「何て?」

「普通のお見合いで出会って結婚したカップルより、お見合いパーティで出会って結婚したカップルの方がさ、離婚率が高いんだって」

「…ふぅん」

「普通の見合いって事前に相手の経歴とか全部知り尽くした上で会うじゃん?でもパーティだと全部一から説明するわけだろ?やっぱ皆見栄張っちゃうんだってさ。で、結婚した後に話が違うってなって離婚するパターン」

「…くだらない」

「でも気持ちは分かるよなー。特に大人数のパーティだったら興味もってもらわないと始まらないもん。年収ホントは500万だけど600万って言っちゃうかも。子供苦手だけど好きって言っちゃうよな〜。ホントは休日引きこもってるくせにアウトドア派って言っちゃったりー」

「馬鹿馬鹿しい。騙される方が馬鹿なんだ」

「でも塔矢だって、いざ聞かれたらとっさに吐いちゃうと思うよ。ウ・ソ」

「そうなわけないだろう」

「じゃあ質問してみてもいい?」

「ああ」

「塔矢って、処女?」

「…………」


一瞬頭の中が真っ白になった。

そしてカッと顔が赤くなるのが分かった。

進藤がニヤニヤしながら返事を待っている。

殴ってやりたい衝動にかられてしまった。

なんてデリカシーのない。

しょ、しょじょだなんて…そんなわけ、そんなわけそんなわけそんなわけ…

そんなわけ…あるんだけれども…

(だって僕は囲碁に人生を捧げてきたのだ…)



「そ、そんなわけ、ないだろう…!」

「ほら、ウソついた」

「嘘じゃない!26にもなって処女なわけがないだろう!!」

「そうムキになるところが怪しいんだって。正直にゲロっちゃえよ〜」

「違うって言ってるだろう!!」

「ふーん」



僕にだって人並みに知識はあった。

世の中の女の子が高校生や大学生、遅くても20代前半でバージンを失っているということを知っていた。

そして20代後半、ましてや30過ぎても処女な女は気持ち悪がられ、どこか欠点がある女なのだとレッテルが貼られることを――


進藤にバレたが最後、きっと僕は仲間内で欠点女だと噂されてしまうのだ。

それだけは避けたい。

だからこの嘘は不可抗力。

吐いても仕方のない嘘なのだ。

しかも幸い今日はエイプリルフール、吐いてもきっと許される…!



「…マジで?ホントに違うの?」

「違う!!」

「信じられねぇ…」

「信じられなくても、それが真実だから。キミもしつこいな」

「だってオマエに男がいたなんて聞いたことも見たこともねーもん!信じられるわけねーだろ!?」

「なに怒ってるんだキミは…」

「そりゃ怒るだろ!もう怒り通り越して頭パニックだっつーの!」

「はぁ?」

「くそっ!誰だよ?オレの知ってる奴!?緒方先生?芦原さん?社?まさか永夏??」

「何を言ってるんだキミは……」

「だってそういうことだろ!?信じらんねーけど!!違うんだろ!?」

「あ…ああ…違…う」


進藤の思いがけないあまりの動揺振りに、ちょっとだけ可哀想な気になってきた。

真実を話した方がいいのだろうか。

いや、でも…


「嘘じゃないんだよな!?」

「あ…ああ…」

「ダメだ、やっぱり信じらんねー。じゃあ証拠を見せろよ!」

「は?」

「処女じゃねー証拠!見せろよ!」

「そんなもの…どうやって…」

「来いよ!」



進藤に腕を掴まれ、囲碁サロンから連れ出された。

エレベーターも待てないらしい彼は階段で一階まで降り、ビルを飛び出した。

2ブロック先のファッションホテル――彼が僕を引っ張って行ったのはそこだった。

拒否する間も無くベッドに押し倒された。

すぐさま上に彼が乗ってくる――怒りを含んだ涙じみた目で睨まれる。



「進…藤……」

「証拠見せるのなんて簡単だよ。一回ヤればいいんだって」

「ヤ――」


言葉を失う僕に、構わず彼は服を強引に脱がしていった。

どう考えても力では僕の方が下なので、無駄だとは思うのだけど一応抵抗はしてみる。

が、抵抗すればするほど進藤が僕を押さえつける力が増していった。


「彼氏がいたんなら今まで散々ヤってきたんだろ?ならもう一回ぐらいどうってことないよな?オレが納得出来るよう証拠見せろよ」

「そんな…」

「違うんだろ?処女じゃねーんだろ?そうなんだろ塔矢?」

「………」


進藤の手がどんどん下に降りていく。

僕の体は恐怖で固まっていった。

怖い。

嫌だ。

こんな感じでバージンを失うのも。

こんな風に彼に抱かれるのも。

進藤にこんな顔をさせてしまう自分も―――何もかもが嫌だった。





「…ごめ…さい…」

「なに?」

「ごめんなさい……」


僕がそれを口にした頃には、進藤の指は僕の下半身を弄っていた。

触って、確かめて、彼の顔の怒りが少しずつ止め始めた頃だった。


「だって…恥ずかしいじゃないか…26にもなって…」

「なんで?別にいいじゃん、処女でも」

「よくない。どうせ僕は欠陥女なんだ。だから今まで男性と縁がなかったんだ…」

「いいよ、なくて。オレとだけあってくれたら」



進藤が嬉しそうに笑った。

さっきまでとは違う優しい愛撫で再開し出した。



「よかった…オレが初めてだ」

「そうだよ、キミが初めてだ。責任取ってもらうからな」

「喜んで♪」



唇でも何度も愛し合って、僕はこの日とうとう女になることが出来た。






余談だけど、さっき囲碁サロンで際どい会話を大声でぶちまけていた僕ら。

数時間後、手を繋いで帰ってきた僕らをお客さん達は拍手で出迎えてくれました…///









―END―









以上、2013年度エイプリルフール話でした〜。
久々に更新出来ました♪
自分のことは棚にあげて、アキラさんが処女じゃないことに怒る身勝手なヒカル君…いかがでしたでしょうか〜?(笑)
(きっとヒカルは10代で捨ててるね!ナンパしてきた年上のお姉さんとかと!)
でもこの二人、元々無自覚の両想いなんですよ。
だからアキラもヒカルに押し倒されても本気で嫌がってない。
ただ、こんなシチュエーションで抱かれたくなかっただけです。
でも暴露してからはヒカル君も超優しくなって、きっと想い描いてた通りの初体験が出来たことでしょうvv
あ〜ん、もっと詳しく書けばよかったかしら(笑)