●UMBRELLA●
毎年6月から7月にかけて、日本列島は梅雨の季節に入る。
今日も朝は晴れはしたが、午後から雨らしい。
「あれ?進藤?」
対局を終えて帰ろうとしたら、先に終わったはずの彼が玄関で立ち往生していた。
視線の先にはドシャ降りの雨。
彼の手に傘の姿はなし。
「朝は晴れてたのに…」
と口を尖らしていた。
「天気予報見なかったの?午後から雨だって言ってたよ」
「テレビなんて見る時間ねーもん。いつもギリギリまで寝てるから」
「じゃあ自業自得だ」
僕は鞄から折り畳み傘を取り出した。
女性向けの小さな傘だから、このドシャ降りから大人二人を遮るのは絶対に無理。
それでも一応、
「入ってく?」
と聞いてみた。
「…いい。二人とも濡れちまうのが目に見えてるし。もう少し小降りになったら駅まで走るからいいよ。ありがとう」
「そう?じゃあ…」
またね、と言って僕は棋院を後にした―――
棋院から駅まではほんの数分だ。
小雨程度なら走ってもたいして濡れない距離。
でも、いつこの大雨は治まるのだろう。
天気予報では確か今夜もずっと降り続く…とか言ってた気がする。
駅に一人で向かっている途中、僕も一緒に待ってあげればよかったと少し後悔した。
だって…最近進藤と打ってない気がする。
待ち時間で一局ぐらい軽く打てただろう。
戻ろうかな…。
駅に着いた僕は、どうせ戻るなら…と売店に売っていたビニール傘を手に取った。
「…これ、ください」
新品のビニール傘を手に再び棋院に戻ると、まだ彼は玄関で空を見上げていた。
僕の姿に気付いた彼が、驚いた顔をする。
「塔矢…」
「駅に売ってたから」
「マジ?買ってきてくれたの?」
「500円。体で返してね」
「ハハ。いいよ、じゃあ今日は久々にオマエん家の碁会所で打つかぁ〜」
こうして僕らは並んで駅に向かい始めた。
ちなみに、彼に買ったのは70cmの大きな傘だ。
もう少し小降りになったら、彼の傘に僕も入れてもらおうかな。
―END―
以上、傘話でした〜。
体で返してね、ヒカル君。